第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
ほの花からはこの親子のことしか聞いていなかったが、家の中には父親のいた形跡はない。
此処まで来てしまったわけだから、もう少しだけ首を突っ込んでみるかと思い、琥太郎に向き合う。
「お前、親父は?」
「…俺が産まれてすぐに死んだって母ちゃんが言ってた。」
「そうか。…んならお前が母ちゃんを守らねぇとな。」
「こんな子どもに何もできねぇよ。」
大人ぶっていても子ども。
でも、それをコイツはちゃんと理解して受け入れてる。弱さを認める強さは持っているが、その行先を誰も照らしてくれていない不運にも見舞われている。
周りに大人がいたらどうすべきか指南してやることはできたのに、致し方なく母親を守るために盗みを働き、そこをほの花に助けられた。
「そんなことねぇだろ。しゃーねぇから身の守り方くらい教えてやるよ。」
「…身の守り方…?」
「世の中にゃ、暴力で解決しようとするどうしようもねぇ大人もいる。そん時に身を守れるように俺が教えてやるっていってんの。」
「…おっさん、強いのか?」
「まぁね。そんなもんはほの花が俺に惚れた
一部分でしかねぇけどな!」
強いところに惚れたのかなんて聞いたこともないが、まぁ、此処は言葉のあやっつーもんだ。
「家事はほの花に教えてもらったんだろ?それなら俺は身の守り方を教えてやる。ただし、本当に強い男は自ら喧嘩はしねぇ。大切な人を守るために強くなれよ。」
子どもだからって何もできないわけじゃねぇ。現にコイツはほの花が来ていない時の家事は一手に担っていただろう。しかし、それを認めてやる大人も周りにいないことが原因だ。
「……強くなったらおっさんからほの花を解放してやる。」
「あん?んなことできるわけねぇだろうが!?俺とほの花は相思相愛だっつーの!!」
「おっさんなんかにほの花みたいな良い女勿体ねぇ!」
「よし…今から地獄の稽古をつけてやる。覚悟しろ…クソ餓鬼が…。」
珍しく人の世話を買って出たことで、「俺って良いやつ」と自分を褒めてやりたいと思いかけていたのに琥太郎の発言に再び大人げなく声を荒げる羽目になった。