第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
しかし、琥太郎くんの家に行く理由はお母さんの病気の件が最たる理由だということを流石に分かっている宇髄さんは出発する頃には物騒なことは言わなくなっていた。
もう隠す理由も無いので堂々と薬の準備をしていると宇髄さんが後ろから抱き締めてきた。
「なぁ、あの能力は使ってねぇよな?」
低い声で囁かれるのはいつものあの言葉。
耳にかかる息が擽ったい。
「もーー。使ってないよ〜!流石に見ず知らずの人に最初から使ったりしないよ。信用ないなぁ。」
「あるわけねぇだろ!?ころのすけにも使ったくらいだぞ?!疑ってくれって言ってるようなもんだろ。」
「ころのすけは犬じゃん!」
「は?犬じゃんって…。犬なら良いとか思ってるなら行く前に一発ぶち込んで良いか?」
「そ、そうは思ってない、けど…。」
駄目だ、この件に関しては自分の中で余罪があり過ぎて、言い訳したところでボロが出そうで怖い。
「ごめんね。確かにそうだね。気をつけるから許して?お願い。」
仕方なく認めて、謝罪すれば少しだけ満足そうな表情になったが、抱きしめる力は強い。
本当に心配してくれていることが伝わってきて、殊更申し訳ない気分にさせられた。
「…お前が苦しむのは見たくねぇんだよ。許すけど、こっちの気持ちも考えろよ?」
「そうだよね。ごめんね?」
「ったく、その顔で謝れば良いと思ってんだろーー!腹立つ、クソ可愛い、ムカつく!!」
不満気に顔を歪ませているが、私の体を離そうとしない所に深い愛を感じる。
そんな風に愛されるものだから勝手に目尻は下がってしまうし、その腕に手を添えてみれば絡ませてくれる指が温かい。
「その顔…?どの顔?」
「うるせぇ、こっち見んな。絆されちまうだろうが。俺は今自分と戦ってるんだ。」
「ひどーい!私だって顔見たいのに!!」
「はいはい。早く準備していくぞ。俺は今日の夜、警備なんだよ。ヤる時間なくなんだろ。」
「…え?!し、シてから行くの…?」
「ん…?」
「………なんでもない。」
まさか既にそんな確約をされていたとは思わず、苦笑いをしてしまうが、私だって嫌なわけではない。
薬箱の中身を補充と整理して、蓋を閉めると後ろから伸びてきた手が軽々とそれを持ち上げた。
(…そういうふとした瞬間の優しさも堪らなく好きなところ。)