第18章 まだ見ぬ先も君といたい。※
「母ちゃん!薬師が来てくれたよ!!」
家の扉を開けると薄い布団にくるまって横になっていたその人に向かって駆け寄る琥太郎くん。
恐らくお母さんだろう。
痩せこけてしまって、顔色は酷く悪い。
薬師だが、母の家系が医療系で医師も多いので知識として全くないわけではない。そう言う本も多くはないが、多少あったから。
「…琥太郎…?お金も、ないのにそんな人連れてきたら駄目でしょう。」
咎めるような目をして琥太郎くんを見るお母さんを慌てて制した。
「お母さん、私が勝手に来たんです。街で彼に会ってお友達になったのですが、お母さんが病気だと聞いて診させてもらおうと思って…。お金はもちろんいりません。拝見してもいいですか?」
そこまで言うとお母さんは目に涙を溜めて泣き出してしまった。よっぽどつらかったのだろう。溢れる涙が薄い布団を濡らして染みを作る
ゴホゴホっと咳き込んだところで背中をさすってあげると漸く泣き止もうとしているようだった。
「ありがとうございます、ありがとうございます…。本当にありがとうございます…。」
「いえいえ、ただの薬師なのでちゃんとした診断はできませんが…、お薬なら渡せますので。」
コクンと頷いたのを確認すると仰向けにして、脈の確認と呼吸音を確認した。
ゼェゼェという呼吸とさっきのゴホゴホという痰が絡んだような咳は肺が悪い証拠。
体に触れると熱もあるし、肺炎になっているのかもしれない。
懐に入れてあった薬箱を出すと、抗菌薬と解熱剤を取り出して渡す。
「肺が悪そうなのでまずは肺の炎症を抑えないといけません。この抗菌薬は毎食後一包飲んでください。解熱剤は今飲んでも大丈夫ですが、飲んだら6時間ほど開けてください。」
「毎食後…、ですか。」
そこまで言ってハッとした。
そうだ、この人が此処まで悪くなってしまった由来はこの環境にある。
隙間風が入り込み、外なのかと思うほど寒い室内。
見たところ食べる物は先ほど買い取った物のみ。
琥太郎くんがそれを料理して食べさせることなど難しいし、このお母さんが作ることも難しいだろう。
部屋の中も掃除ができていないのだろう。あちこちに埃が溜まっていて、虫がわいているとこもある。
(こんなところじゃ治るものも治らない…。)