第18章 まだ見ぬ先も君といたい。※
琥太郎くんを説得して向かっているところは彼の家。彼が盗んだものは栄養がありそうな野菜やお米。母親が病気と言うのは本当のようでぽつりぽつりと話してくれる。
「お母さんはいつから病気なの?」
「…半年前から。」
「お父さんは?」
「いねぇ。俺が産まれてすぐに病気で死んだって言ってた。それから母ちゃんが働いて育ててくれてたけど…体壊して…いまは働いてない。」
それは…子ども一人育てるのは大変な苦労をされていることだろう。
彼に連れていかれる先は本当に家なんてあるの?というほどの草っ原。隣には川が流れていて水には困らないのかもしれないけど…。
草を掻き分けるように進むと小さな家が見えてきた。
「あそこ?」
「うん。此処でいいよ。コレ…買ってくれてありがと。」
「え、あ…、う、うん。」
高価なものなどないし、子どもにおやつを買ってあげたと言って問題ないほどの金額。
それすら買えなくて苦労されてると分かると、放っておけない…という何とも独りよがりな正義感がまた頭を覆い尽くす。
これ以上、首を突っ込んでしまうことが良いことなのか分からない。
余計なお世話かもしれないし、上から目線の道楽とでも思われてしまうかもしれない。
でも、隣で歩いていた琥太郎くんはまだ子どもなのに大人びてる。
大人みたいに接しないといけないほど、甘えられる人がいないからだ。
私は生きてきてずっと父も母もいて、兄が四人もいたから甘えたい放題で育った。
「抱っこ」と言えば抱っこしてくれたし、「おんぶ」と言えばおんぶしてもらえた。
今だって甘やかしてくれる人がすぐそばにいてくれていつも温もりに満ちた生活を送っている。
私にできることならば少しでもやりたい。
困ってる時はお互い様のはずだ。
此処で出会ったのも何かの縁だ。
そこまで考えると琥太郎くんの肩を掴んだ。
「…お母さんに会わせてもらえない?私、薬師なの。」
病気の母が心配でたまらない彼が"薬師"という言葉に惹かれるのは分かっていた。これをダシにしてしまうのは如何なものかと思ったが、此処で断られないためにはその職業を出すのが必要だった。
案の定、彼の瞳には希望の光に満ちて、今日初めての笑顔を見せてくれた。
それはとても子どもらしい笑顔だった。