第17章 君色日和※
音柱様ってこんな風に笑うんだ。
鬼狩りの時は表情が硬いわけではないが、ここまで柔和な笑顔は見たことがなかった。
未だに甘味を薦めてくる神楽さんを呆れたように見つめているが、先日の鬼狩りの時みたいな刺々しさはなく、睨んでくると言うわけではない。
どういう気持ちなのかは知る由もないが、私に対しての怒りの感情は感じない。
それもこれも目の前でおはぎを食べてる神楽さんから発せられる空気感のおかげのような気もする。
「あやめちゃん、早く食べないとわたし全部食べちゃうよ。本気で食べれるんだからね。」
「昼飯も食うんだろうな、おい。」
「栄養を全部これで補えるなら食べなくてもいいとすら思ってます。」
「おい、お前!食え!それからほの花はあと一個だけだ。昼飯、雛鶴たちが準備してたから食わなかったら俺がドヤされるだろうが!」
めちゃくちゃな言い分だが、音柱様にまで圧をかけられて、仕方なく差し出された箱から草餅を取ると「では、頂きます」と齧り付いた。
「草餅、美味しいですか?」
「貰おうとすんなっつーの。」
「な、そ、そんなことしてません!!」
「え、あ…た、食べます?」
「え……?」
「おい!揺らいでんじゃねぇかよ。…お前、コイツのこと気にせず、食え。」
まるで茶番のようなやり取りにぽかんとしてしまうが、だんだん二人の繰り広げる会話が面白くなってきて口を真一文字に噤み、必死に耐える。
この二人が作り出す雰囲気は暖かくて優しい。
それでいて心を許しあっている関係性が素敵だと感じた。
「神楽さん、音柱様が仰るので食べますが、草餅あと二個ありますので。」
「うん!此処の甘味大好きなの!あやめちゃん買ってきてくれてありがとね。」
「…また、今度買ってきます。」
"また"なんてことがあると思っていなかったのだろう。驚いたような顔をした神楽さんだったが、すぐにニコッと笑ってくれて「ありがとう」と言ってくれる。
こう言うところがきっと好きなんだろうな。
隣で愛おしそうに神楽さんを眺めている音柱様は彼女の頭を撫でながらお茶を啜っていた。
許してもらえたと思って良いのか分からないが、今度はお詫びではなく、差し入れで買って行ってあげようと本気で思わせられたのはきっと彼女のおかげ。