第17章 君色日和※
あんなことがあったのにその後、まさか彼女と任務が一緒になるとは思わなかった。気まずいのはお互い様だけど、こちらから喧嘩を吹っかけてしまった以上、わたしはあくまで強気で接した。
しかし、思ったよりも彼女は芯の通った聡明な女性で、任務に私情は持ち込まないと私にも普通の態度で接してくれた。
あんなこと言って次に会ったらお叱りを受けるのではないかと思っていたのに、友好的な柔和な態度の彼女に気にしていたのはこちらだけのような気持ちになり、苛つきを隠せなかった。
更に苛つかせたのは継子くらい譲ってよ、なんて思っていたのに、思ったよりもずっと冷静沈着に鬼と対峙して、奥することなく挑んでいき、首をも難なく斬り落とす。
そんな彼女を見て私は焦っていた。
大したことないんでしょ?と思っていたのに実際には全然そんなことなくて、彼女の機転と冷静な分析によって鬼を倒せたと言っても良い。
不思議な技を使っていて、それを音柱様に教えてもらったのかは不明だが、その背中は頼もしくて一瞬だけ音柱様が頭にちらついた。
「あやめちゃん」だなんてあんな風に意地悪されたくせに人懐っこく喋りかけてきた神楽さんに驚きしかないが、偶然来てくれたらしい音柱様が極寒の川にいた彼女を抱き上げたのを見た時、何もかも一本の線で繋がったように感じた。
音柱様にとってみたら彼女が継子であろうが薬師であろうがそこの関係性など取るに足らないこと。
彼女だから継子にしたし、彼女だから薬師としても応援していただけ。
あの子を愛して恋仲になったが、本当ならば自分の恋人に鬼斬りなんかさせたくなかったのだろう。
抱き上げた時の彼の表情が物語っていた。
そこまで分かってしまうと、継子くらい譲ってくれだなんて烏滸がましいどころか選択肢にすら無いということに恥ずかしくなった。
壊れ物を扱うかのように大事に大事に彼女を抱える音柱様はただ一人の大切な神楽さんを心配している恋人の姿だった。
その関係性だけが唯一無二で、それ以外のものなど、二人にとってはただの型枠でしかないのだ。