第17章 君色日和※
最初は単純に神楽ほの花と言う人が羨ましかった。
きっと私は音柱様に惹かれていたんだと思う。今となってはそんな想いは蓋をすることが好ましいし、今だからこそまだ蓋をできる。
10名以上の鬼殺隊士と共に任された任務の指揮をとっていたのがたまたま音柱様で、ご一緒するのは初めてだった。
しかし、怪我をしてしまった私に傷薬をくださって、家までは距離が遠かったので一日だけ藤の家に泊まった。
部屋も別だったし、実際には介抱してくれたのはその家の主人である老婦人。
音柱様を見かけたのは次の日の朝10時ごろ。
それまで一度も見かけなくて一人残されたのだろうかと思ったほど。
しかし、翌朝ちゃんと迎えに来てくれた音柱様は背中に私を担いで此処まで運んでくれた。
特に話すこともないようで終始無言だったのに、神楽さんのことだけは饒舌に話す音柱様にその数時間だけで彼女のことが気になって仕方なかった。
「傷薬ありがとうございます。もう痛みがほとんどなくてビックリしました!」
「だろ?!俺の女が作ったんだ、すげぇだろ!」
「音柱様の恋仲の女性ですか?凄いです!」
「ああ、継子なんだ。薬師としてお館様にも仕えてる。あまりにクソ可愛くて手出しちまったけどよ。ハハハッ」
背中越しでどんな顔をしているのかは分からなかったけど、神楽さんのことを聞けば嬉しそうに教えてくれる。無言よりも嬉しそうに話してくれる音柱様との会話を楽しみたくて、ただただ夢中で話を振った。
担がれる前に手に持っていた包みも神楽さんに渡すものだと言う。あんなに会わなかったのはこれを買いに行っていたりしたのだろうか。
あくまでも私のことは業務の一環だと言われているようで少し悔しかった。
半ば奪い取るようにそれを代わりに持っていたが、返すつもりではいた。流石に他の女性に買ったものを持っていても嬉しくもなんともないから。
しかし、蝶屋敷に着くとすぐに次の任務があるらしくて、一度屋敷に帰ってから出かけると言って慌てて帰っていった音柱様に持っていた包みを渡すのを忘れてしまった。
きっと彼女の顔も見たかったのだろうと考えるとどろどろとした黒い感情に頭を覆い尽くした。