第3章 立ち振る舞いにご注意を
「よし、今日のとこはこれで終わりな。」
鴉がカァカァと鳴き出し、夕陽が綺麗な空が広がる頃漸く修行は終了となり、手を地面について暫く動けないでいた。
「明日は今日の準備運動を三倍やっておけ。俺は仕事があるからな。その後、お館様のところに行くんだろ?今日の速さでやってたらいつまで経っても行けねぇから倍速でやれよ。」
「う…は、はぁい…。」
「まぁ、でも、初めてにしてはよくやった。一度も弱音を吐かなかったのは偉かったぞ。(まぁ、こそこそ文句は言っていたが。)」
私の前に跪いて、子どもにやるようによしよしと頭を撫でてくれる宇髄さんは昨日までの彼で、飴と鞭の使い分けが秀逸すぎて頭が混乱してきた。
一人でやらせるわけでなく、十倍近くの量を半分近くの速さで終わらせていた彼を尊敬するが、"柱"の凄さを目の当たりにして愕然とした。
そもそも私はこんなんでどうやって鬼となった父を倒したのだろうか。十分に戦えるとは思っていたけど宇髄さんを見てしまうと自分がとても陳腐に感じる。
日輪刀と呼ばれる刀も持っていないし、とても今の自分の実力で鬼を倒したなんて思えない。
やはり咄嗟に陰陽道で式神を出して、鬼門封じでもしたのだろう。
「どうした?また何か悩んでんのか。」
座り込んだまま考え込んでいた私の眉間をツンと突っついた宇髄さんにハッと我に返った。眉間に皺でも寄っていたのかツンツンとしつこく突っついてくる彼のそれを避けるように仰反る。
「難しい顔してっと可愛い顔が台無しだぞ。」
「慰めなら結構ですよ…。あんな修行の後で自分が酷い顔しているのは分かりきってます…。」
「はいはい。悩み事があんなら聞くぞ?可愛い継子のためだ。」
ニヤニヤと私の言葉の続きを待っている宇髄さんはきっと一緒に考えてくれると思うが、最近やたらと"継子"を強調してくるのは奥様に誤解をされないためだろうか。
上官の意向には添わなければならないので、私は口角を上げて「師匠、ありがとうございます〜!」と声を張り上げた。