第3章 立ち振る舞いにご注意を
── 一週間後
「あと100回ずつな。」
「……お、おに…。」
「あ?なんか言ったか?」
ブンブンと首を振ると言われた通りに"たった今終わったばかり"の腹筋と腕立て伏せをやり始める。
私の体調は一週間ほどで全快して今日から"準備運動から始めるか"と言って広い庭に出たかと思うといきなり走り込みを30分、その後この腹筋と腕立て伏せを100回と言われた。
それくらいなら難なくこなせる私に向かい「なかなかやるじゃねぇか」とニヤリと笑うと思ったら冒頭の台詞だ。
できるだけであって、決して楽勝ではない。
病み上がりで体力は戻ってないし、終わった時点の私の荒い呼吸が見えてなかったのだろうか。
あ、ひょっとして目が悪いのかな。
「…35、…36…。」
「おい、速度が落ちてるぞ。もっと速くやれ。」
あれ?気のせいでなければ昨日まではとても優しくしてくれていたはず。体調を気にして、毎日顔色を見に来てくれて、声をかけてくれた。
まさか、別人?
鬼と戦う前に、鬼に鍛えられている私は実戦の前に死ぬのではないか。いや、死なないとは思うけどあまりの厳しさにめげそうだ。
そんな失礼なことを考えながらもなんとか追加された宇髄さん曰く"準備運動"を終えるとその場で座り込む。
「…はぁ、はぁ…し、死ぬ…」
「情けねぇなぁ。このくらいで。次は打ち込みだ。その前に水分でも飲め。本当に死ぬぞ。」
誰のせいで死ぬと思っているのだろうか。そんなことは口に出して言えやしないが、"ほら"と渡された冷たいお茶を飲むと火照った体が生き返るようだった。
そりゃあ宇髄さんのように全身筋肉のような恵まれた体躯を持っていたらこんな準備運動は朝飯前だろうが、私はその半分くらいしかない筋肉量で何とかついて行ってるのだからむしろ褒めて欲しいくらいだ。
甘ったれな私はそんな恨みごとを心の中で唱えるが、彼には頭が上がらないので湯呑みを置くと、渡された木刀を持って立ち上がった。