第3章 立ち振る舞いにご注意を
──温かい。
この温もりに昨日からどれほど助けられたであろうか。思い出したのは彼らの奥様達のこと。
姉のように慕っていて、遊びに行くといつも甘味を出してくれた優しい人たち。
私が全国を旅すると決めた時、護衛で三人を連れていくことになったのに笑顔で送り出してくれた。あれが最期となるなんてあの時は思いもしなかった。
トクントクンと聴こえてきたのは自分の鼓動じゃない。これは彼の鼓動だ。一人じゃないと思わせてくれるその温もりと鼓動に肩の力が抜けていく。それと同時に込み上げてくるのは吐き気ではなく、涙。
枯れるほど泣いたのにまだ出てくるそれに嫌気が差しそうだ。
「我慢しねぇで泣いちまえよ。誰も見てねぇ。俺も、見てねぇから。」
言葉はぶっきらぼうだけど優しさが伝わってくるその物言いに涙腺は呆気なく崩壊して、涙がこぼれ落ちて来た。
前を向きたいのに、まだ涙が出てくる自分は何て弱っちょろいのだろうか。この温もりに甘えるべきなのか迷ったが、溢れ始めてしまった涙は止めようと思っても止まりそうにない。
私はそのまま彼の胸の中で暫く泣き続けてしまった。それでも何も言わずにいてくれた宇髄さんはきっと忍耐強い人なのだろう。
ズズッと鼻を啜ると少しだけ顔を離して、そのまま頭を下げた。
「ほんっとに!!昨日からお恥ずかしいところばかり見せて申し訳ありません!!!」
先手必勝だ。
こうなってしまえば、最初に謝ってしまったもん勝ちなのだ。
「何のことだ?俺は何も見てねぇから知らねぇなぁ。」
それなのにそんな風にわかりきった知らないふりをしてくれる優しい宇髄さんに本当に心から出逢えたことに感謝をした。
そのまま「任務を遂行するように」と言って部屋から出て行ってしまえば私のやることは一つしかない。
仕方なく布団に横になると目を閉じて夢の世界に旅立ったのだ。