第17章 君色日和※
"使ったのは20秒ほど。
ふらつきと目眩が五分ほど。"
それを頭の中で反芻しながら胡蝶邸に向かうとしのぶさんが私の姿を確認して目を輝かせていた。
「ほの花さん!ちょうど今、助けを呼ぼうとしてたところなんです。怪我人が多く運ばれてきたので手伝って頂けませんか?」
「了解です!」
産屋敷様に使った能力を伝えることもできないまま、次々と運ばれてくる怪我人の手当てを無心で行う。
怪我の種類は多岐にわたる。
頭部裂傷や腹部刺し傷、酷い時は腕が千切れていたりする重傷の人も運ばれてくる。
流石に手術は専門外なのでできないが、応急処置や対処療法やら薬を必要とする場合は役に立てるのでひたすら患者さんと向き合う。
その中に宇髄さんがいないか無意識に探してしまうが、どうやら彼はいないようでホッとした。
こんな時、副作用さえなければあの能力を使ってしまえば早いのになぁ…と薬師らしからぬ考えが過ぎってしまう。
迂闊に使うことは許されないが、怪我をしている人を目の前にすると薬ではどうしようもないと無力感を感じてしまうこともあるのも事実で…。
でも、ふと産屋敷様の言葉が甦った。
"君の薬が如何に凄いかをいろんな隊士に言って回ってるって小耳に挟んでね"
宇髄さんは私のことを信頼してくれていたのに私は何で彼のことを信じることができなかったのだろう。
弱すぎる自分の心に叱咤激励をすると彼が褒めてくれていた薬を使って一生懸命に応急処置をした。
そうすることがせめてもの贖罪と感じた。
やっぱりちゃんと謝ろう。
もし許してくれなくても
それはそれでいい。
自分で蒔いた種なのだ。
「ほの花さーん!今度はこちらをお願いします!!」
「すぐ行きます!」
その日、私は深夜まで薬箱を持って蝶屋敷を走り回った。不思議と疲れは感じなかった。
それよりも彼が守ってくれたこの薬師としての居場所をとても愛おしいと感じて、久しぶりに心が暖かかったから。