第17章 君色日和※
宇髄さんが立ち上がったことで"頭を冷やせ"の意味が少しだけ距離を置くと言うものではなく、"別れる"と言うことのように感じた。
こんなに罵倒してしまったのだ、当たり前だ。
ころのすけを抱いたまま、立ち上がった宇髄さんは呆れたようにも見えて悲しくなってきた。
「宇髄さんは…、私を思い通りにしたかったんですよね。だから思い通りにならなければ捨てるんだ。」
「……ほの花。」
「だってそうでしょ?じゃなかったら何で私の鍛錬してくれなくなったんですか。新しい継子を受け入れようと思ったからじゃないですか!」
「…ほの花。」
「私、彼女に言われたんです。薬ばっかりやって大した戦果もあげてないんだから継子を譲ってくれって。その時の私の情けない気持ちわかりますか?!」
止まらない。
もう駄目だ。
きっと私、彼ともうやっていけない。こんな女、私が男なら願い下げだ。
宇髄さんに相応しくない。
遂に堰き止めていた涙が溢れてきてしまって、いよいよ面倒臭い女に成り果てた私は自暴自棄になってきた。
「…薬師として認めて下さったのは、嬉しいし、ありがたいです。でも…、大した継子じゃないって言われた私の気持ちわかりますか?情けなくて悔しくて…宇髄さんには分かりっこないです!!」
「…ほの花、俺も一回頭冷やしてくるから。ごめんな。」
彼は頭を冷やしてまた話そうと言ってくれているだけ。そんなの冷静になって考えてみれば分かることなのに、この時の私は分からなかった。
わからないよりも此処に留まってくれない彼がどうしても許せなかった。こんなに罵倒してるくせにそばにいて欲しいだなんて、虫の良すぎる話を私はこの時本気で思っていたのだから。
「…っ、宇髄さんなんて、大っ嫌いです!!もういいです!知りません!!」
シャランと揺れる耳飾りが今は不協和音のように感じてしまう。
大嫌いなんて思ってない。
大好きで大好きでたまらないから、嫉妬に狂って彼を罵ってしまった最低な女を私自身が一番許せなかった。