第16章 子犬のワルツにご注意を※
「で?話は戻すけどよ、どこに傷があるんだ?ん?」
「ど、どこでしょう…?無いですねぇ…。」
「何でよ?」
「て、手当てしたから…?」
「ふーん?包帯とか巻いてねぇなぁ?」
尋問だと言われても間違っちゃいねぇ。でも、これは間違いなくほの花の過失。
元に目を彷徨わせて俺の方を全く見ない。
やったな、こりゃぁ。
完全に黒だな?お前。
「と、取れちゃったのかなぁ…あはは。」
「ほの花…。」
俺はそのままほの花の頭に手を乗せてぐるりとこちらを向かせると目を合わせる。
大きな瞳をこれでもかと見開き、ぱちくりとさせて狼狽えているが、こういうことはきちんとしてとかねぇと蟠りが残るからな。
「ほの花?今なら許してやらんこともない。」
「え、ほ、本当ですか?」
やめろよな。そんな期待に満ちたクソ可愛い顔をすんのは。分かってやってんのか?結局、俺はほの花に弱いのは分かりきっていることだが。
「…ま、まぁ…。」
「ごめんなさい…。ほんの少しだったので使ってしまいました…。」
しゅん、と耳が垂れた子犬みたいな表情をするものだから俺の心は簡単に折れた。
どうやら家にはすでに子犬がいたらしい。
(…あー、本当狡いよな。お前。クソ可愛いんだよ。)
ほの花の頭に置いてあった手を外すとそのまま首の後ろに手を添えて引き寄せた。
唇に柔らかな感触を感じるとそのまま舌を捻じ込んで絡ませてやる。
このまま此処で押し倒してやることはできるが、どうにも俺たちを見上げている犬っころが気になって仕方ねぇ。
名残惜しくも唇を離すとほの花に向かって飛びついた犬っころをため息を吐く。
「…ったく、で?大丈夫なのか?」
「はい!すぐ治って走り回ってました!ねぇー?」
そう言って犬っころを抱き上げると目を合わせてニコニコしているほの花だが、ガクッと項垂れた。
「犬っころじゃねぇよ…。お前の体は大丈夫なのかって聞いたんだ。本当にお前はもう…。」
何でこうも自分に無頓着なんだ…。
怒る気も失せて来た。
目の前にいるほの花が全てだ。
今、元気そうにしてるなら大丈夫ということ。
犬っころくらいじゃ大したことないのだろうが、第一選択がほの花だということに早く気付いてくれねぇかな…。