第16章 子犬のワルツにご注意を※
宇髄さんが怒らなかった理由に納得ができると少しだけ羞恥心が減った気がした。
私のことに飽きたわけでもなければ、嫌いになったわけでもない。
理由を聞いてしまえば愛を感じてしまって愛おしくてたまらなかった。
しかし、私は自分の発言の中でうっかりと失態を犯していたことにこの後気付かされた。
本当に失態としか言いようがなくて言われた瞬間、時が止まったように感じた。
「なぁ、そう言えばこの犬っころ、どこ怪我したんだよ?大丈夫なのか?」
「………え?」
「え?ってさっき言ったじゃねぇか。怪我して助けたらついて来たって。」
──言った。
確かに言った。
間違いなく言った。
何故そんなこと言ったのだ?!
怪我などない。だって治してしまったから。
傷口は綺麗さっぱり元通りだ。
でも、こんな時の私は取り繕うことなんてできない。他の人ならまだしも相手は"宇髄天元様"。
私のことを知り尽くしている男。
「……そ、それは…話すと長くなります…。」
「……長くねぇだろ?簡潔に、且つ俺が納得できるように教えてくれよ?ほの花ちゃん?場合によっては…。」
「よ、よっては…?」
「朝まで抱く。寝ても何度でも起こして朝まで。何なら二日くらい寝床から出さねぇ。」
エゲツないこと言ってくださる……。
目は座っているのに口元だけ笑っている宇髄さんからは今度こそ"怒り"の感情が読み取れた。
まさか、こっちで怒られるなんて思ってもいなかった私は完全に墓穴を掘った。
掘ったならば今、その穴に入りたい。入って見えないようにさせてくれ…!と脳内で繰り広げる無意味な願いは彼の視線によって最も簡単に崩される。
「話すと長くなるんだろ?ちょうど良いじゃねぇか。朝まで長いからな?」
「さ、流石にそれは泣きますー…!」
「ああ、可愛く啼けよ?」
"ワンワンッ!!"
「お前じゃねぇ!しかもそっちの鳴くじゃねぇし!!」
ころのすけに向かってこどものように怒っている宇髄さんだが、怒っている内容が内容なだけに私は口を挟むこともできずに項垂れた。