第16章 子犬のワルツにご注意を※
「………。どう言う状況だと思う?お前。」
最後にたどり着いた自分の部屋を開けて第一声。俺は腕の中にいる子犬に思わず尋ねてしまった。
部屋を開けた瞬間、ほの花が俺の枕に顔を埋めてスヤスヤと寝ていたのだから。
普段、こちらが誘わないと来ない癖に、いない時に限って入り込んでいるとは少しだけ不満がたまる。
しかも、服を脱いで「おかえりなさい。」なんて艶っぽい顔で言われた時にゃ、秒で襲ってやると言うのに。そんなことが起こったときにはほの花の頭がおかしくなったとしか考えられねぇ。
気持ちよさそうに枕を抱きしめて寝ているほの花は可愛いが、この状況はよく分からない。
よほど眠かったのか?
それにしても此処で寝るかね。
顔だけ横に向けて枕に突っ伏しているほの花の頬を指で触れてみる。柔らかくてつるつるの肌が何の障害もなくなめらかに指を滑らす。
「…お前な、寝てても起きててもクソ可愛いな。」
「ワンッッ!!」
「お、おい…静かにしろって…!」
突然、腕の中にいた子犬がデカい声で吠えるものだから慌てて口を押さえるが時既に遅し。目の前のゆっくりと開かれる瞳に起こしてしまったことに申し訳なさを感じた。
「あーあ、お前のせいでほの花が起きちまっただろー?」
「くぅーん…。」
ちゃんと言葉を理解しているのではないかと思うほど賢い子犬は俺が咎めると申し訳なさそうな表情をした気がした。
だが、ほの花は寝起きが良い方ではないので、目を開けてはいるがまだボーッとしている。
目の前に座って頭を撫でてやると、ゆっくりと顔をこちらに向けてにこーっと笑うものだからあまりに可愛くて子犬を下ろして抱きしめてしまった。
「……うずいさ、ん?おかえりなさい…。」
「ただいま。何だよ、夜のお誘いかよ?ほの花ちゃん?」
「……お誘い?」
ほの花自身まだ状況を飲み込めていないのか俺の言葉を噛み砕いているようで時間だけが過ぎていった。