第16章 子犬のワルツにご注意を※
一日寝たところで私の失態は消えはしない。
そして一度自分が言ったこともやらないわけにはいかない。
翌日、私は午前中に鍛錬を終えると周りの様子を伺いながら冨岡さんの屋敷にお邪魔した。
此処で誰かに見られでもしたら一大事だから。
泥棒でもするのかと思わせるほどの不審者具合に私自身も恥ずかしくなってきたが、念には念を……、ともう一度塀の外を確認すると、漸く冨岡さんに声をかける。
「こんにちはー…、冨岡さーん、いませんかー?いないならいないでも良いですよー…。」
こうなってしまえば、居ない方が都合が良いのではないか、彼と此処で顔を合わせている事実なんてない方がいいに決まっている。
「…悪いが昨日の夜任務があったので日中は此処にいる。」
「ヒェッ!!け、気配消さないでくださいよ!びっくりしましたー…。」
「ほの花が入ってきてからずっとこの縁側にいたが……?」
「ごめんなさい。考え事していて気づきませんでした…。」
それにしても私は冨岡さんに失礼すぎる。
昨日だって不躾にこんなお願いをしておきながら彼は嫌な顔ひとつしなかった。
人間の出来が違う気すらした。
ギスギスとした心をそのままに冨岡さんに目を向けるとこちらを見て"ワンワンッ!"と元気に吠えるころのすけ。
動物って本当に癒される。
数秒前まで私は自分の負の感情を消化できずに悶々としていたと言うのにたった一度の鳴き声で心が丸くなったよう。
「うぅーー、ころのすけーー!!」
手を差し出すと冨岡さんの膝から元気よく駆けてきて私の胸に飛び込んできた。
余分な感情なしで、ただ本能のまま生きているころのすけは可愛いし、計算がないだけで本当に癒される。
それに比べて私は昨日からどうすれば宇髄さんに怒られる量が少なくて済むかなんてことを考えてばかり。
女ならばビシッと謝って許してもらうことが一番だろう。
私はころのすけをぎゅーっと抱きしめると腕の中に閉じ込めた。
自分の道筋さえ決めてしまえば、怒られるのは早く終わらせたいと思い、宇髄さんが早く帰ってこないかなぁ…なんて図々しい考えがよぎる。
それでも素直になることがこの三日間の出来事の行く末を左右する気がして私はひたすら考えを巡らせた。