第16章 子犬のワルツにご注意を※
居間に入ってもため息ばかり吐く私に正宗が声をかけてきた。
「ほの花様どうかしたんです?ため息ばかりついて。幸せ逃げますよ。」
雛鶴さんにお茶を淹れてもらって鼻の下を伸ばしている幸せ者には私の気持ちはわかるまい。
いや、幸せだ。間違いなく。
宇髄さんに愛されて幸せなのは間違い無いのだが、怒らせるようなことをすぐにしてしまう自分に腹が立つのだ。
「…宇髄さんに怒られるようなことしちゃって落ち込んでるの。」
「怒られるようなこと?また何かしたんですか?男心が分かっていませんねぇ。」
そうやってニヤニヤと笑う正宗にムッとする。
でも、その言葉は宇髄さんの誕生日の時に私が彼に対して渡そうとした贈り物に対して苦言を呈してきた正宗たちに言い放った言葉。
結果として私の方が分かってなくて怒らせてしまったのだが…。
「放っておいてよー!今日から三日間、私は懺悔の日々を送るの!」
「ほの花さん、天元様に怒られるって何をしたんですか?」
正宗とのやりとりを隣で聞いていた雛鶴さんがそう聞いてきたので、"雛鶴さんなら分かってくれるかも…!"と藁にもすがる思いで向き合い、言葉を紡ぎ出す。
「あ、あの…昨日ですね…怪我をしていた犬を助けたんです…。」
「犬を?」
「はい。そしたらその懐かれてしまったようで今日玄関先に…いましたよね?」
「ああ!あの犬はほの花さんを待っていたんですね!須磨が見つけて教えてくれたんです。」
やはりみんな知っていた。
口々にどれくらいの犬だったやら、大人しくて可愛かっただの感想を述べ合う六人を尻目に食い気味に言葉をかぶせた。
「わ、わたしも可愛いなって思って飼いたいけど宇髄さんいないし…どうしよう…ってふらふら散歩してたら柱の冨岡さんとバッタリ会って…」
「…あの…天元様が怒りそうな出来事がほの花さんの口から発せられそうな気がするのは気のせいでしょうか?」
「……気のせいじゃ無いです…。」
その瞬間の雛鶴さんの顔が完全に苦笑いで、正宗と顔を見合わせてため息を吐いた。