第16章 子犬のワルツにご注意を※
産屋敷様の調合をするが、今回は能力を使わなかったのでしのぶさんの家での滞在も談笑のみ。
宇髄さんも心配するし、早めに帰ろうと思って足早に歩いていると何かが聴こえてきた気がした。
「…ん?」
気のせいだろうか。
耳の良さは常人並だし、宇髄さんほどではない。
それでも聴こえてきたということは割と近くだ。
──クゥーン…
やっぱり聴こえた…!
間違いではなかったようでその場でキョロキョロと見回してみるが、なかなかその声の主を見つけることができない。
(…犬…わんちゃん…だよね?)
人間でないなら恐らく小さくて狭いところに入り込んでいるのかもしれない。
私は壁と壁の間や、溝の隙間を見たりしたが、一向に見つからない。
すると、もう一度今度は大きめに"わんっ!"と聴こえたのはおそらく上。
見上げてみると木の上の細い枝の上に震えるように掴まる犬が見えた。頼めば犬も木に登るとはよく言うが、何かを追いかけて登ってしまったのだろうか。珍しいこともあるものだ。しかし、今はそんな悠長に感心している場合ではない。
今にも落ちそうなその子に慌てて、木に飛び移ると、抱きかかえた。
手の中に収まるほどに小さな小さな子犬で野良犬なのか周りに親はいなさそう。
救出できたことでホッとしたのも束の間、子犬が怪我をしていることに気付いた。
「…あれー…怪我しちゃったの?痛かったねぇ。よしよし。いま治してあげるからね。」
せっかく産屋敷様に使わなかったと言うのに何の躊躇いもなく犬の前足に向かい手を翳すと怪我を治した。
しかし、犬は人間よりも小さくて治す量も僅かなので目眩すら殆どない。
治ったことで私の指をぺろぺろと舐めて、まるで"ありがとう"と言っているようで嬉しくてギュウッと抱きしめた。
「…かっ、わいい…!!」
里にいる時は、森の動物たちが身近にいたのだが、此処には早々いない。暫く見たこともなかった小動物に私の胸は高鳴った。
「……でもなぁ、…連れて帰るのはなぁ…。宇髄さんに聞かないといけないし…。ごめんね、此処でお別れだよ。もう怪我しないようにね。」
断腸の思いで子犬を地面に置くと頭を撫でてやり、立ち上がると後ろ髪を引かれる思いで走り出した。
(くぅーーー、可愛かったぁぁ…!!)