第15章 君が生まれた日※
まだ日の出前で、他の奴らはまだ寝ているので、入り損ねた風呂にコソコソと二人で入った。
本当は風呂でヤっちまいそうだったけど、必死に耐えた。それはもう派手に必死に。
ほの花の足腰は昨日の今日で完全に使い物にならなかったし、それは俺の責任でもある。
それなのに風呂でもう一発ぶち込みました、なんて所業は絶対できない。
ほの花を抱き上げて部屋に戻ってくると散らばった隊服の下に桜の刺繍が見えた。
(…あー、昨日言ってた手拭い…か。)
昨日ほどの激しい怒りはもうないが、やはり現物を見るとムッとしてしまう。桜井っつー男が誕生日を知っていて贈ったものではないのは分かっているが、こちらも知らなかったので先越された気分になった。
椿油を塗ってわしゃわしゃと髪を乾かしているほの花を後ろから抱き締めると不思議に思った彼女がこちらを振り向く。
「ん?どうかしましたか?」
「なぁ、何か欲しいもんねぇの?」
「欲しいもの?んー……あ!!宇髄さんの寝顔見れます券!!」
「……却下。」
どんなもん欲しがってんだよ。コイツはもっと装飾品とか化粧品とかそういうのは欲しがらねぇのかよ。息を呑むほど綺麗な顔をしてるのに勿体ねぇ。着飾ればもっと絶世の美女だろう。
良くも悪くもほの花はそういう類のものは興味がないようで、装飾品は俺が前にやった花飾りと父親の肩身である首飾りだけ。
「何か着るもんとか身につけるもんとかいらねぇの?」
「んー…。だって…里にいたからそう言うのは疎くてよくわからないんです。だから欲しいと思ったことあんまりないかもです。」
「……あー。」
あのクソ山奥の里にいれば確かにそう言うものに興味を抱くこともなく生きてきたのだろう。
ほの花が今、特に欲しくないというのも肯ける答えで肩を落とす。
「…あの、何で欲しいもの聞いてくるんですか?」
「はぁ?誕生日の贈り物に決まってんだろ!?」
そこでハッとしたように驚くほの花にこっちが驚く。よほど自分の誕生日に無頓着のようだ。
恐らく
いや、かなりの確率で
いや、ほぼ確実に
また自分の誕生日のことを忘れていたぞ、コイツ。
だが、そんなほの花を見てしまうと忘れたことも仕方ないとすら思えてきた。
来年は俺が覚えていてやればいい。
ただそれだけのことだ。