第15章 君が生まれた日※
「桜井さん…だからほの花さんのこと気にしていたんですね。てっきり手当の御礼でもしたいのかと…。」
あまりにしのぶさんが申し訳なさそうにするので勿論責めることはできない。相手は蟲柱の胡蝶しのぶさんだ。いくら仲が良くても一般隊士で宇髄さんの継子の私が彼女を責めることなんて烏滸がましいことだ。
「そんなそんな…いいんですよ。しのぶさんの仰る通り、多分、そのー…恋とか愛とか…そういうんじゃないです。御礼で受け取ってって言ってましたし…。」
「手当の御礼で律儀に物を買って渡すなんてよっぽど……感謝してたんですね。」
「…今の間は…何でしたか?」
「いえ…。宇髄さんが怒る案件だなぁと思っただけです。」
絶対いま"恋とか愛とかだろ"って思っていたと思う。私の目を全く見ないしのぶさんは珍しい。
でも、私と宇髄さんの仲を壊そうとは思ってないって言ってたし、私が隠し通せれば何も起こってないことと同じだ。
「…だ、大丈夫です。隠し通します…!」
「どんどん秘密が増えますねぇ?」
ニコニコしてるのに目が笑ってないしのぶさんを恨めしそうに見ることしかできない。
どちらにしても秘密が増えると言うのは間違いないのだから。
「それだけじゃないんです…。私、先週誕生日だったんですーー!!」
「あら、おめでとうございます!あ…ひょっとして今日お祝いですか?そんな日に他の人からの贈り物なんて怒るでしょうねぇ…。」
しのぶさんの言葉は最もだが、事態はもっと深刻だと言うことを彼女にすら言いにくい。
肩を落として絶望感に苛まれながらも私はぽつりと話し出す。その絶望を。
「…誕生日を言い忘れてたんです…。宇髄さん、私の誕生日知らないんです。」
その時のしのぶさんの顔は一生忘れられない。
「ほの花さんってお馬鹿さんなんですね!」
「…ああ、いま、心の声が聴こえた気がします…。」
「いえ、今、間違いなくこの口で言いました。ふふふ。お馬鹿さん。」
黒い笑顔のしのぶさんも可愛いけど、言葉は辛辣。
それでも、言い返せないだけの大ボケっぷりに頭を抱えるしかなかった。