第15章 君が生まれた日※
確かに私はこの人の応急処置用で持ってた手拭いを巻き付けて…そうだ、この時、胸元のモスリンももぎ取って使った。
後から後から思い出す出来事は目を覆いたくなるばかり。
もちろん宇髄さんの鬼の形相が頭をよぎり…。
「い、いやいやそんな頂けませんよ!あれは応急処置用に持ち歩いていた物で、大した物ではないんです!こんな素敵な物を頂けません…!」
「神楽さんも体調が悪かったって聞いたよ。それなのに僕のことを優先して処置してくれて本当に感謝してるんだ。蟲柱様からも神楽さんの応急処置が完璧だったから助かったって言われたし…。だからさ、ね?受け取って?はい。」
そう言うと私の手にそれを乗せてにこやかに笑っているけど、こちらの心情は戦々恐々だ。
もちろん宇髄さん…(以下同文)
「…アリガトウ、ゴザイマス…。」
もうカタコトでしか喋れない。
針の筵にいるようだ。
手の中にある手拭いには既に手のひらに分泌された汗が染み込んでしまっているので返すこともできなさそうだ。
「俺、桜井って言うんだ。だから桜の刺繍にした。少しでも君に覚えていて欲しいなぁ…なんて。」
「…あ、アハハ…、さ、桜井さんですね…。」
恐らく二度と忘れない。
忘れたくても忘れられない。この手拭い見るたびに思い出す。
「音柱様とのことは知ってるし、仲を壊そうだなんて思ってないから。ただあげたかったんだ。貰いにくいならいつかは知らないけど誕生日の贈り物として受け取ってくれたら。それじゃあ!俺行くね!」
誕生日の贈り物としては絶対にダメーーー!!!
宇髄さんに誕生日のことを言ってないのに先にこの人にもらうだなんて有り得ない有り得ない有り得ないーーー!
言い逃げのように颯爽と帰っていく彼の後ろ姿を見て、ため息を吐くと何の罪もない手拭いが手の中で主張してくる。
それを隊服に仕舞いこむと重い足取りでしのぶさんの屋敷に向かった。