第14章 【VD特別SS】初めての愛をあなたに…※
「お疲れ様でした。ほの花さんのおかげで片付きました。ありがとうございます。もう遅いですし、このまま此処で休まれていきますか?」
そう言われて時計を見ると零時を越していて唇を噛み締めた。
しのぶさんが悪いわけではないのに今日中に"ばれんたいん"が出来なかったことが悲しくて仕方なかった。
(…初めて、"ばれんたいん"に好きな人に渡せると思ったのに…。)
そんなことを言っても怪我人の手当てをするということは人の命を助けると言うこと。
尊いことをしたのだ。
当日に渡すのはまた来年やればいいではないか。
しかし、私たちは鬼殺隊。
来年があるのかも不透明な中、だからこそ今日渡したかった気持ちが込み上げてきた。
それを隠すように笑うとしのぶさんに「帰ります。」と一声かけて、走って家に向かった。
もうどうせ間に合わない。
間に合わないし、宇髄さんは任務で疲れてるんだから寝てるかもしれない。
それでもいい。
寝顔だけでも見たい。
肌に突き刺すような冷たい空気が追い打ちをかけてくる。こんなことで泣きたくないのに泣きそうだ。
こんな真夜中に玄関から入ってはみんなを起こしてしまうと思い、途中で屋根に飛び上がり、屋根伝いに家を目指す。
何十戸の家を飛んできたのかは分からないが、見慣れた屋敷が目に入ると庭に降り立つ。
帰ってきてしまうと間に合わなかったことに気持ちがどんどん落ちていく。
明日食べてもらえればいいじゃないか。と自分で自分を慰めるがなかなか気分は上がらない。ふと後ろを振り向くと優しい顔をした宇髄さんがこちらを見て縁側で座っていた。
「おかえり。」
「え、…、ど、どうして…?真夜中ですよ?早く寝ないと…。」
「お前の顔が見たかったんだよ。お疲れ。ほら、俺も任務疲れたから癒して?ほの花。」
そう言うと両手を広げる宇髄さん。会いたくて会いたくてたまらなかった彼が目の前にいる。
目頭が熱い。
何年も会っていなかった恋人との再会でもないのに
自分本位の理由なのに
勝手に溢れてくる涙をそのままに私は大好きな胸の中に飛び込んだ。