第13章 オンナノコの初任務
思った通り、幻影の実体はそこまでしっかりとしていない。蝋燭の炎が揺らぐように幻影がブレたところにそのまま本体に向かって走り出す。
「朱雀、本体に攻撃!!一気に片を付ける!」
「承知」
(……初めて声聴いた。喋るんだ。)
陰陽師としての能力なんて殆ど使ったことがなかった19年間。今日だけで脳から溢れ出しそうなほどの情報量が入ってきた。
式神が喋ることも
五行の調べがちゃんと使えたことも
自分の体術と舞扇が実戦で通用したことも
まだまだこれからもっと強くなりたいけど、とりあえずは目の前の鬼を倒すことだけを考えろ。
幻影を突き抜けて本体の前に再び躍り出ると振り下ろされた大鎌を舞扇で受け止めると薙ぎ払った。
──陰陽道 最終奥義 鬼門封じ
鬼門封じによって動きが完全に止まった本体に向かって地面を蹴るとそのままの勢いで首に向かって舞扇を振り下ろした。
鈍い音と共にそれが吹き飛ぶとコロンと首が転がっていた。
それに目を向けると赤い目がこちらを睨みつけていた。
「クソッ!クソッ!雑魚のくせに…!雑魚のくせ…に…!!」
「…そうね、彼に比べたら雑魚だけど…。雑魚にやられたあなたはもっと弱かったってことよ。」
散り散りになって消えて行く首と胴体に向かって五芒星を指で描き、手を合わせると祈りを捧げた。
(…どうか次は道を踏み外しませんように)
それを見届けると隣にいた朱雀に頭を下げて式神を解除した。
周りを見ると完全に幻影は消えていて鬼の掃討が完了したことが分かり、ほっとすると全身に疲労がまとわりついてきた。
(…あー…、ツラい…。お腹痛い、お腹痛い、お腹痛い…。宇髄さん…。迎えに来てぇ…。)
心の中で師匠に向かって無理難題を言ってみるが、柱の警護範囲は広い。
今日もどこに行ってるのかわからないし、そもそも今日中に帰れるような仕事なのかも聞きそびれて分からない。
いつの間にか月に妖しくかかっていた雲はどんどんとその範囲を広げていて、頭にぽた、ぽた、と水滴が落ちてきた。
(…ねぇ、今日本当にツイてなさすぎない?)
真冬の雨なんて最悪だ。
動きやすいので慣れてきていた隊服の丈の短さが今は恨めしい。