第2章 興味本位
「おい、食い過ぎてまた吐くんじゃねぇぞ。」
頑張って食べようと意気込んでいるその姿はもちろん応援したい気持ちもあるのだが、こちとら一度忘れられない体験をしている身とあっちゃァ内心穏やかではない。
しかし、俺のその言葉に思い出したかのようにハッとして大きな瞳が俺を捉えた。
「うっ…そ、その節は本当に申し訳ありませんでした…!あ、あの!お金!弁償!」
「あー、そんなもんいいって。それより本当に無理すんなよ。食えるだけ食え。」
「で、でも…」
納得できてないほの花がしょぼんと項垂れてしまったので、どうしたもんかと頬を掻くがその時話を聞いていた雛鶴が声を上げた。
「え!まさか、昼間帰ってきた時に天元様が言っていた女性って…。」
ああ、そう言えば雛鶴には事の次第を話していたか。
「そ。コイツのことよ。ホントお館様に紹介された時はビビったわ。」
まさかあの時の"出会って三秒嘔吐事件"の女がお館様の知り合いで継子にしてくれなんて頼まれるとも思っていなかった。恥ずかしそうに俯くほの花の頭をぽんと撫でて"気にするな"と言うと雛鶴が目を輝かせてこちらを見ていた。
「素敵…!!」
「は?」
何が素敵なんだ。まぁ、確かに変な奴でなくて良かったとは思うが、こちらは嘔吐物をかけられたのだ。素敵と言う表現は全く適当でない気がしてならない。
「だってそれって運命みたい…!出会うべくして出会ったんですよ!素敵…御伽噺のようです。」
「「………。」」
いま、少なくともほの花とだけは腹の内を共有できると思う。微妙な顔をして見上げるその姿はバツが悪そうで引き攣っている。
雛鶴の言うように所々を掻い摘んで繋げれば御伽噺のように感じるかも知れないがこちとら当事者だ。
多少、そう思ったこともあったが、御伽噺は言い過ぎだろ。
しかし、すっかり妄想の世界に旅立ってしまった雛鶴がこちらの世界に戻ってきたのは再び須磨とまきをが揉め出した頃だった。