第11章 ヨリミチトキミノミチ※
ほの花の背中に石鹸を泡立てた手拭いで洗ってやるが、あまりにきめ細かい白い肌で力の強さがわからなくなる。
「痛かったら言えよー。」
「痛くないですー。」
後ろを見ながら微笑んでくれるほの花にホッとしたが、足を抱えて前が見えないようにしているところを見ると未だに見られるのが恥ずかしいのだろう。
「そんな恥ずかしがんなって。家族と風呂に入ったことくらいあるだろ?」
「ありますよー。でも10年くらい前にに兄たちと入ったのが最後ですけど、それもほとんど記憶にないです。」
「はぁ?男と一緒に入ってんじゃねぇよ。」
「……兄です。血の繋がった…。そして覚えてないので無効にして下さい。」
呆れたようにこちらを見るが、兄だとしてもこの綺麗な肌を見た男がいるってことにムッとしてしまったのは事実だ。
「宇髄さんだってあるでしょう?家族でお風呂に入ったことくらい。」
「あー……覚えてねぇな。あの三人と温泉には行ったことあるけどよ。」
「…そうですか。」
「なんだよ、なんか怒ってる?」
急に声の質が変わったような気がしてほの花の顔を覗き込むが、すぐに逸らされてしまう。
「全然怒ってませんよ!大丈夫です。」
目線を逸らしたのはほの花なのに、笑顔でこちらを向いてそんなことを言うものだから何も言い返せずにほの花の腕を取って洗い出した。
「…宇髄さんは兄妹はいらっしゃるんですか?」
「……兄妹、か。」
「あ、…!すみません!今の質問なしで!だいぶ体動きそうなので私が今度はお背中洗いますね。」
そう言うと自分の手拭いを濯いで石鹸を泡だて始めたほの花。
すぐに答えなかったから気を遣わせたのだろう。
気にしていないように立ち上がったほの花が背中を洗い出すと、ひとつ息を吐いた。
「…ほの花、あのな…」
「大丈夫ですから。」
「…へ?」
「人には言いたくないことの一つや二つありますし、言い淀むと言うことはまだ言いたくないと思ってる証拠です。だから今の質問は無かったことにして下さい。聞かなくても宇髄さんの愛を疑ったりしませんし、私も変わらず好きですから。」
凛としたほの花の言葉があまりにすんなりと頭に入ってきてモヤがかった視界が鮮明になるような気がした。