第11章 ヨリミチトキミノミチ※
「…温泉…早く入りたくなってきました。」
「まぁ、待てよ。先にメシ来るから食ってからな?」
「はぁい。確かにお腹空きましたねっ!」
里では持って行った携帯食を食べたけどちゃんとしたご飯は朝ぶりだ。
後ろ髪引かれる思いで襖を閉めるとちょうど仲居さんが食事を持ってきてくれた。
「失礼します。お食事をお持ちしました…あら、あらあら。仲の良いことで…ふふ。」
そう言って笑う彼女に初めて自分が宇髄さんに腰を抱き寄せられてベッタリとくっついていることに気付く。
「へ、あ、や、えと…」
「まぁな。可愛いからな。俺の女は。」
「んなっ!?」
「ふふ。はい。とても可愛らしい奥様でいらっしゃいますね。」
「おくさ…!!!?」
まだ婚約?したような関係なだけで奥様だなんて呼ばれるのは恐れ多い。
そんな私を置いてけぼりに宇髄さんと仲居さんは楽しそうに会話を繰り広げるので、私は彼の腕の中で固まることしかできなかった。
持ってきてくれた食事が卓に並び、仲居さんが「失礼します〜」と部屋を出て行くとやっと肩の力が抜けた。
「どんだけ緊張してんのよ。社交辞令もあんだろ。それに行く行くはそうなるんだから慣れろよ。」
「だ、だ、だって…。」
「まぁ、その先を聞いてもどうせ"自分なんか"って言うに決まってるからよ。聞かねぇからな。お前はもう俺のなの。それは決定事項だからな。」
私の腰を引いて卓の前に座らせてくれると目の前に宇髄さんが座る。ずっと抱き寄せられていたのでちゃんと顔を見れてなかったが、こう面と向かって食事をするのはよく考えたらあまりない。
家でも宇髄さんは向かい側ではなくて常に隣にいるから。
「?どうした?変な顔して。」
「よく考えたら前に宇髄さんがいるの変な感じですね。」
「あー、確かに。まぁ、これはこれでいいな。お前の顔見ながら酒が進むな!」
今から温泉に入ると言うのにちゃっかり徳利と猪口が置いてあって飲む気満々だ。
まぁ、宇髄さんは意味わからないくらい強いから平気だろうけど…。
しかしながら宇髄さんの言うことも一理あって、彼の顔を見ながら食事をすると言うのもなかなかない機会なのでこれでもかというくらい見てやった。