第11章 ヨリミチトキミノミチ※
「何で私の心臓が煩いって分かったんですか…?」
そんなこと初めて言われたが、隣の部屋で極力小さく歌ってたはずの歌も聴こえていたのだから何となく説得力はある。
「んー?俺は音柱様だぞ?耳がいいんだよ。だからお前の心臓の音もいつ濡れるかも手に取るようにわかんの。」
「んえええっ!?は、恥ずかしいぃぃっ!何ですかそれ!!恥ずか死にそうなんですけどぉっ!?」
「何でよ。俺的には感じてくれてんだなとか意識してくれてんだなとかすぐに分かるし、ほの花の歌も聴けるし、良いことばかりだけどな。」
特殊能力…。さすがは柱…。
恋仲でも本当に知らないことばかりだ。
私は少しだけ彼を知ろうとする努力を怠っていたのだろうか?
そう言って笑う宇髄さんが少しだけ遠くに感じてしまったのはここだけの話。
「…宇髄さんのこと知らないことばっかりです…。これからたくさん教えてくださいね。」
「…そんな面白ぇ話はねぇぞ?」
…あ、少しだけ曇った表情をした。
いつも前向きで明るい彼だけど、ほんの少したまにこういう表情をする時がある。
きっと聞かれたくないことなのだろう。
でも、それはきっと私に知られることの恐怖なんだと思う。
普段の宇髄さんは恥ずかしいことも恥ずかしげもなく言うことに長けているというのに、そんな彼が隠したがるということは私に知られることを恐れている。
そんな気がする。
聞かれて嫌なことを無理に聞き出したいわけではない。私は慌てて話題を切り替えることにした。
「まだ入ってないけど他にもおすすめの温泉はあったら教えてくださいね?」
「おー、そうだな。まぁ、よくアイツらと行ったからな。」
「へぇ〜、そうなんですねぇ。…それじゃあ、きっと雛鶴さんもまきをさんも須磨さんも此処に来たかったでしょうね。ふふ。」
いいなぁ。
あの三人は私の知らない宇髄さんを知っている。
羨ましいという感情を全面に出すとまた彼に気を遣わせてしまう。
極力平静を装ったが、宇髄さんを独り占めしたいような変な気持ちが頭を覆い尽くして、そんな自分が物凄く嫌だった。
(…みっともない。)