第11章 ヨリミチトキミノミチ※
「正宗たちと全国旅してた時に行かなかったのかよ?温泉。」
「その時は歌をうたってお金を稼いでそのお金で旅をしてたので殆ど野宿してお風呂はお風呂屋さんでした。」
「…そもそもアイツらが一緒だったとは言え、二度と野宿なんてすんなよ。男に襲われたらどうすんだよ。」
宇髄さんがそう怒り出したので慌てて頷いたが、あの時は鬼の存在を知りもしなかったので出来たけど今考えると物凄く恐ろしいことをしていた。
十二鬼月とやらに出会っていたらその時点で死んでただろう。宇髄さんは別のことで怒っているが、危険なことをしていたということだけは納得できる。
しかし、こちらを見て「でも…」と話を続けている宇髄さんと目を合わせるとポンと優しく頭を撫でられた。
「まぁ、お前の歌はすげぇ好きだけどよ。」
「…え?私、歌ったことありました?」
「たまに部屋で歌ってんだろ?聴こえてくるからよく聴いてる。」
それを聴いて私は愕然とした。
聴こえていないと思って、極力小さめの声で歌っていたのにそれが聴こえていたと言う事実に。
「す、すみません…!うるさかったですよね…?」
「煩くねぇよ。むしろ好きなんだっつーの。結構楽しみにしてるんだからやめんなよ?癒されるんだよ。お前の歌声。」
「そうですか?それなら…良かったですけど。」
本当に好きだと思ってくれているようで顔を綻ばせる宇髄さんを見ると嬉しく思う。
あの時は母が教えてくれた異国の歌を普及させようと思って、あわよくばそれで生活が出来ればとすら思っていたので"好きだ"と言われると嬉しかった。
まさか薬師として働くことになるとは思わなかったけど、歌ってきたことが誰かの役に立つこともあるのだと実感できたこともありがたい。
宇髄さんが私の歌で"癒される"と言ってくれるならば私は彼の為に歌い続けようと思った。