第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
薬品庫を出ると目の前にあった温室ですぐに使えそうな西洋薬草をあるだけ詰め込んだ。
種を植えて育てようとは思っていたが、これだけあれば当分の間、薬膳茶を産屋敷様にお渡しできそうだ。
「なぁ、お前の両親や兄たちの墓もあの丘にあんのか?」
「え?そうですよ。」
「じゃあせっかくだから手を合わせて帰りてぇんだけどいいか?」
「…え、い、いいんですか…?」
まさか宇髄さんからそう言われるとは思わなかったので少し驚いた。産屋敷様に"お供え物を…"と頼まれていたので最後に行こうと思っていたが、宇髄さんがそう言ってくれたことがすごく嬉しかった。
「当たり前だろ?大事な娘を手篭めにしちまったからな。詫びの一つや二つ入れねぇと…。」
「て、手篭めって…。」
「昨日の夜も散々抱きまくったしな。」
「な、な、…それは、そう、ですけど…。」
恋仲なのだから手篭めという表現は間違っているが、ニヤリと笑う宇髄さんなりの照れ隠しなのかもしれない。
温室をでると、産屋敷様の言う"お供え物"のために庭に綺麗に咲いていた花を摘む。
食べ物を供えても持って帰ってくるしかないので、手頃になるがこれがいい。
母が手塩にかけて育てた花はまだ綺麗に咲いていてくれたし、お墓に供えたのならば家に帰ってきたように思ってくれるだろう。
それを持つと庭にあった手桶と柄杓を手にして小川の水を汲んだ。
雲一つない晴天で風は冷たいが、繋がれた手の温かさがより感じられて寒くて良かったとも思ってしまう。
丘には家族以外の里の人たちのお墓もあるためその丘一帯が全てお墓という異様な光景だ。
たくさんのお墓を横目に見ながら宇髄さんを案内したのは家族のお墓。
父、母、そして兄たち四人。横並びでお墓を作ったので随分と大きく感じる。
お花をひとつひとつ置いて行くと、宇髄さんがお墓に水をかけてくれた。
あまりに丁寧に手を合わせてくれているのでまるで宇髄さんが自分の旦那さんになったような錯覚を覚えるほど。
全てのお墓に水をかけ終えると、宇髄さんが突然父と母の墓前に座り込み頭を下げ出した。