第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
あまりに予想していなかった行動で目を丸くしてしまったが、この後私はもっと彼の行動に驚かされた。
「初めまして。宇髄天元と申します。ご挨拶の前に娘さんに手を出してしまったことをまずお詫びさせて下さい。」
「…え、う、宇髄さん…?」
「自然に囲まれて、家族に愛されて育ったほの花さんはとても天真爛漫で心根も美しい素敵な女性です。あまりの可愛さに立場を忘れて惚れてしまいました。」
もう私の家族は土の中。
要するに生きていない。それなのに宇髄さんはまるでそこにいるかのように話してくれていて涙が溢れてきた。
ここに来て一体どれほど泣いているのだ。
でも、これは今までの涙とは違う。
嬉し涙、だ。
「…今、俺たちは鬼舞辻無惨を倒すために鬼殺隊士として道半ばです。あなた方の無念もしっかりと晴らしてみせます。それと…今日はお詫びだけでなく、お願いもあって来させてもらいました。」
すると宇髄さんは隣で泣いている私の手を取り、座るように促すので彼の隣に座り込む。
「…道半ばではありますが、ほの花さんを将来妻として娶ることをお許し頂きたく存じます。」
「……ええ?ちょ、う、宇髄さん?」
「お義父さんの部屋にあった婚礼衣装、拝見しました。次来る時は世界で一番美しい花嫁を連れてきます。皆さん、手拭いの準備をして待っていてください。俺の花嫁は死ぬほど美しいのできっと涙が止まりませんよ。」
それって…婚約って言うんですよ?
知っていますか?
そんな大切なことを家族の前で宣言して、万が一私のことを捨てたら末代まで呪われますよ。
「…な、何言ってる、んですかぁ、…。」
「ん?何って結婚の挨拶だろ?しまった、"娘さんを下さい!"っつー名台詞を言うの忘れたぜ!」
ニカッと笑う彼のは少しも後ろ向きの感情は読み取れない。本当に私のことを娶るつもりでいてくれてるんだ。
そんな顔を見て涙が止まらないのは仕方ないでしょう?
宇髄さん、ひとつだけ間違ってましたよ。
手拭いの準備をするのは私でした。
そんな泣き噦る私をその場でずっと抱きしめてくれた宇髄さんは本当に辛抱強いと思った。