第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
薬棚には欲しかった西洋薬草の種や母が作ったアンプルが数種類、未完成の薬のサンプルなどがあった。
産屋敷様に使えそうな物もあったのでホッと胸を撫で下ろした。やはり此処に来てよかった。
あの薬事書の中だけではどの組み合わせが効果があるのか手探り状態だったが、此処にある薬はその答えをくれる。
完全なる答えでなくても、母が手がかりをくれている。
頭の中に無限に広がる薬の調合方法。こんなことならば母にみっちりと薬のことを聞いておくんだったと今更後悔しかないが、こうなってしまったからこそ自分で考えて答えを導き出さねばならない。
それは私の薬師としての試練だと思う。
甘ったれでいつも家族が助けてくれていた私の人生。少しくらい苦労をした方がいいとすら思うのだからこれで良かったのかもしれない。
持ち帰れる分は全て薬箱に入れ込んで鞄に入れると行きと違いずっしりと重い。
それを肩にかけようとすると急に感じていた重さがなくなった。何故かなんて考えるまでもなく、隣にいた宇髄さんがそれを持ってくれていて口角が上がった。
「ありがとうございます。重いですよね?」
「いや?行きに担いできた荷物に比べたら軽いもんよ。」
行きに担いできた荷物…?
宇髄さんはそんな荷物を持ってきただろうか?私のことを抱き上げて此処まで走ってはきたけど…。
ん…?まさかとは思うけど…
「…あの、まさか私のこと言ってます?」
「…さ、もういいか?なはははっ!」
「私のこと重いって言いました?!言いましたよね?!」
「なっ、こ、言葉のあやだろ?!重いなんて思ってねぇって!これと比べたらっつーことで…!」
「帰りは絶対自力で走りますので!!宇髄さんは軽いそちらをお持ちください!!」
「お、おーい。怒んなって。悪かったって。」
もちろん冗談だとわかっていたけど、ちょっとだけ焦ってる宇髄さんがなんだか可愛い。
いつも私ばっかり揶揄われていたのでついつい怒ったふりをしてしまった。
こんな風にふざけ合える時間も幸せなのだ。