第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
そこに広がっているのは純白の衣装。
西洋のもののようで、美しい装飾やモスリンがあちこちにあしらわれていて凄く綺麗だった。
「…わぁ、綺麗!ひょっとして母に贈ろうとして贈り損ねてしまったのかな…。」
もしそうならば切なすぎる。
母が着たら綺麗だったことだろう。父の無念を思うと悲しくなってしまう。
箱から出てしまっていたそれをもう一度畳んで戻そうとしているのに、目の前の宇髄さんが箱を凝視したまま動かない。
(…どうしたんだろう。変な顔して…。)
疲れでも出たのだろうか?急に心配になって顔を覗き込むと口角を上げて微笑んでくれたので具合が悪いわけではなさそうだ。
「こりゃ母親に贈るもんじゃねぇよ。見てみろ。」
そう言われて箱の内側に書かれていた言葉に目を見開き、顔が熱くなった。
それと同時にあんなに泣きまくったのにまたもや目頭が熱くなってきてしまって気付いた時にはそれが頬を伝ってしまう。
──愛娘 ほの花 婚礼衣装 ──
端的にその中身が分かるようにだけ書いてあるそれは父の人柄を表している。
これが何故ずっとここに仕舞われていたのか。
母に贈ろうとしていたのではなかった…。
私が結婚した時にこれを贈るつもりで作ってくれていたのだ。
異国出身の母の意見も取り入れたのだろう西洋の婚礼衣装はとても綺麗で私なんかにはもったいないほど。
なかなか結婚できない私を追い詰めないように、気にさせないようにこんな奥に仕舞い込んで分からないようにしてくれていた。
これはきっと父の気遣いだ。
父の部屋に来ること自体少なかったが、母のことを第一に考えていた父が娘の私にも同じように愛をくれていたことが嬉しくて堪らなかった。
隣でずっと様子を見ていてくれた宇髄さんがおもむろに畳んで置いていたその衣装をもう一度広げると私にあてがってくれたが、涙で前が見えなかった。