第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
その本を持ってきた鞄に仕舞うと宇髄さんに向き合った。
「次は父の部屋も行ってもいいですか?」
「ああ。」
しかし、了承してくれたはずなのに立ち上がって部屋を出ていこうとする私に反してそこに留まる宇髄さんを見つめると写真を指差してこちらを見ていた。
「写真は持って行かなくていいのか?」
宇髄さんのその提案には少し後ろ髪を引かれる想いがあった。
もし、此処に一人できたならば…寂しくて持って帰っていたかもしれない。
私は彼に向き合うと首を振った。
「…此処に帰ってきたいと思えるようになったらまた会いに来ます。今はそれを見ると後ろ向きな気持ちになってしまいますので、前を見る為には…必要ないと思うんです。」
「そうか…。」
「…それに、私が前を向けるのは宇髄さんのおかげでもあるので…今、私を支えてくれる人を大切にしたいんです。家族は私のかけがえのない存在でした。それは今も変わりません。でも、未来を見据える為には甘えるわけにはいかないんです。」
宇髄さんは驚いたように私を見ると、すぐに微笑んでくれて、そのまま肩を抱き寄せて力一杯抱きしめてくれた。
宇髄さんに出会って私はたくさんもらったんだ。
愛してくれた。
支えてくれた。
かけがえのない温もりをくれた。
どちらかともなく引き寄せられるように唇を合わせるとなんだかいつもより気恥ずかしい気がした。
此処が自分の母親の部屋だからなのかは分からないが、どこかで見ていてくれているような…そんな気分にもなった。
宇髄さんの手を引くと、隣の父の部屋へと促す。
ゴツゴツとした大きな手は父のそれよりも大きい。
大きいけど温かくて大好きなその手にどれだけ愛されて救われたか。
ここまで来たら家族に宇髄さんを紹介しているような気分にもなってきて悲しさが少しだけ消えてきた。
そんな風に思わせられるのも宇髄さんが隣にいてくれるおかげだ。