第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「薬関係は地下の薬品庫にほとんどあるんですけど、母の部屋にも行ってもいいですか?」
「ああ、どこでも付き合うぜ。」
宇髄さんはそう言うと私の手を握り直してついてきてくれる。
あんなに泣き喚いてしまったのにそんなことには殆ど触れずにそばにいてくれる彼に感謝しかない。
こんな暗い過去を持った女なんて本来ならば一緒にいるのもしんどいのではないだろうか。宇髄さんもきっと過去にはいろいろあったのだとは思うけど、それを私に話したこともなければ一度だって悲しい顔をしたこともない。
それなのに私は彼の優しさに甘えて泣いてばかりいて、情けないや。
母の部屋は父と廊下を挟んで向かい合わせ。
陽当たりのいい母の部屋は寝心地が良くて、ついつい昼寝をしてしまう場所だった。
襖を開けるとそこは住んでいた時とほとんど変わらない状態で残っていて時間が戻ったようにも感じた。
「…コレ、お前の家族か?」
宇髄さんが指を差したところには家族写真が並んでいた。
父と母と四人の兄と私が写った写真を見ると記憶の中にだけ残っていたその姿がより鮮明になり無意識に口角を上げた。
「はい。そうです。真ん中が父で、その隣が母。後ろの四人は兄たちです。」
写真の中で紹介をすると宇髄さんは興味深そうに見つめてくれた。好いてる人に家族を紹介することなんて一度もなかったからこれが生前ならば家族はもっと喜んでくれていただろうと残念な気持ちになる。
「ほの花は母親に似てんな?顔立ちがそっくりじゃねぇか。」
「産屋敷様にも言われました。ふふ、嬉しいです〜!母は里一番の美人で有名だったんですよ。」
「じゃあしっかり受け継いでるんじゃねぇの?ほの花も美人なんだから。」
「……宇髄さんって褒め上手ですね。ありがとうございます。」
宇髄さんは私を喜ばせる方法を心得てる人だ。
そんなこと言われて嬉しくないわけがないのだ。
恥ずかしくなって少し目を逸らすと母の本棚に視線を移した。