第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
門まで来るとほの花が大きく深呼吸をして、急にこちらを振り向いた。
「…あの、ここが家です。」
「おお。入るか…?」
「は、入るんですけど…あの、その前にお願いが…。」
ほの花の縦寸がデカいとは言え俺からすれば小さな女に変わらない。
しかも恋仲である愛おしい女に綺麗な瞳で見上げられれば心臓が大きく拍動するのは仕方ないこと。
「何だよ、どうした。」
「……、だ、…抱きしめてほしい、です。」
「お前は一体俺をどうしたいんだ。そんな可愛いこと言ってここで抱いちまうぞ。」
「え、…?!こ、此処で?それは…ちょっと…じゃ、後にします…」
「待て待て待て、冗談だ。ほら、来いよ。」
馬鹿正直なほの花がしょんぼりと肩を落としたので慌てて両手を広げてやるとホッとしたように顔を緩ませて抱きついてきた。
本当にこれくらいいつも甘えてくれると男としては嬉しい限りなんだがつい最近まで生娘だったほの花には難しいか。
自分の体にすっぽりと収まる体をヨシヨシと撫でてやると嬉しそうに擦り寄ってくる。
気が済むまで抱きしめてやると暫くすると自ら離れてまた俺の手を握った。
「…ありがとうございます。入りますね。宇髄さん、いらっしゃいませ。」
そんなこと言える気分じゃないだろうに少しでも気分を上げようとそう言ってくれるほの花が少し痛々しい。
でも、いま俺にしてやれるのはそれに乗っかって明るく振る舞うくらいだ。
「じゃ、お邪魔しまーす。」
そこに入るとやはり村の状況と同じ。
夥しい血飛沫がそこら中に付着しているが、生臭さはない。
入ってすぐの門付近に大きな血溜まりの跡があり、そこまで行くとほの花が俺を見上げた。
「此処で…父にとどめを刺しました。兄が四人いたんですが、そこに積み重なるように亡くなっていました。母は…」
「ほの花!…いいから。そんなこと思い出さなくていい。」
「やっぱり宇髄さんに…一緒に来てもらって良かったです。まだ此処は思い出に出来ていませんでした…ッ、」
自ら俺に抱きつくと顔を隠すようにして泣き声が聞こえてきた。溢れ出した涙はなかなか止まらず、そこで数十分ほの花は泣き続けた。