第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「……ほの花、大丈夫か。」
「…はい。大丈夫です。」
流石の俺も絶句した。
陰陽師の里に入る前に甘えるようにくっついてきたほの花の気持ちを考えると納得せざるを得ない。
そこら中に血飛沫が生々しく残っている村。
遺体が転がっているわけでもない。既に血生臭い匂いもしないし、腐敗臭もしない。
そこで凄惨な事件があったと言うことだけが如実に分かる。
「…里の人たちの遺体は全部お墓を作って埋めたんです。正宗たちと四人で二百人近くやったから大変でした。ちゃんとしたお墓ではないけど…。」
ほの花の指差す小高い山となっているところには確かにそれらしい物がいくつも連なっていた。墓石は無くともアレをたった四人で数日で作ったのなら大したものだ。
そりゃ…体調だっておかしくなるはずだ。
ほの花と初めて会った時の顔色の悪さを思い出すと今更それが納得できた。
「…何もないところですけど、あそこの小川はすごく綺麗でしょ?水がきれいなところだったんです。」
そう言って見たところには小さな小川があって、そこに小さな橋が造られていた。確かに透き通って綺麗な水が流れている。
「そうだな。米が美味く炊けそうだな。」
「ふふ、確かに美味しかったです!」
少しばかり軽口を叩いてみるとほの花も笑ってくれたので肩を抱き寄せた。
向かうところはほの花の家だろう。
歩みを進めると見えてきたのは他の家とは違い重厚感のある門構え。
この里の陰陽師たちの当主だったのだからそりゃ立派な家のはずだ。
ほの花はその場所を目掛けて歩いていくので付き添うが、その横顔は儚くて今にも消えてしまいそうなほどで出来ればすぐにその場で掻き抱いてやりたかった。
それでも歩みを止めずに真っ直ぐとそこを見据えているほの花の手を握りしめた。
(…お前は一人じゃねぇよ。)
自分の存在をそこに刻みつけるかのように。