第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「宇髄さん、ちょっと降ろしてもらえませんか?自分の足で歩きたいです。」
「ん、転ぶなよ。」
「大丈夫ですよー。私、ここで育ったんですから!」
珍しく自信満々なほの花は腕から下ろしてやると確かに軽々と斜面を駆け上がっていくので慣れているのが感じられる。
雪こそ降っていないが、寒い日ならばここは一面雪に覆われてしまうのではないか。それほどの山奥でほの花は育ったのか。
周りを豊かな自然に囲まれて、あんな風に駆け回って育ったんなら確かに天真爛漫な性格になりそうだな。
ほの花の性格の礎を見たような気がして勝手に顔が緩む。
自分とは違い、隠れて過ごしていたとは言え伸び伸びと明るく朗らかに育った彼女は見ているだけで人を笑顔にする。
「宇髄さーん!あっちから行きましょ!近道なんです!」
そう言って俺の手を引くほの花が連れてきたところが道…いや、崖…?で、伸び伸び育ってはいるが多少の猪突猛進でお転婆な性格はこういうところでも発揮されるのだろう。
「よいしょ」っと何の迷いもなくそこに足をかけるお転婆娘は鬼殺隊の制服の丈の短さから下にいる俺に向かって白い脚を惜しげもなく見せているが、こういう時に何の恥じらいも持ってくれないのは腹が立つ。
伸び伸び育ったからいいと言う問題ではなく、こういう危機管理のなさが俺を心配にさせるのだ。
此処にいるのが俺じゃなかったら知らない男に簡単に肌を露出させて、そのまま笑いかけるような奴だ。
(…付いてきてよかったな。)
「あれー?何してるんですか?え、登れないわけじゃ、ない、です…よね?」
「ンなわけあるか。」
ちっとも登っていかない俺を不思議そうに見下ろしているほの花だが、誰かにお前の肌が見られないように配慮してここにいてやってんのになんて報われない気遣いだ。
不満が溜まったので思いっきり飛ぶとほの花をも抱えてそのまま崖の上まで飛び移ってやる。
「……え、えええ?!」
「舐めんなよ、俺を。」
「ドウモスミマセンデシタ。」
恐る恐る崖の下を覗いて高さを確認していたほの花が口を尖らせてこちらをみる不満そうな顔が何とも可愛くて思わずそのまま口付けた。