第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「想像はしてたけど、すげぇ………山奥だな。」
「いま、馬鹿にしました?」
「して、…ねぇよ。」
「何ですか、今の間は。」
此処は里の入り口付近。
宇髄さんの脚力と体力には驚かされる。本当に里に一番近い町までたった一日で来てしまって私は最早自分の想い人を人間かどうかを疑う域に達している。
しかも、野宿をするつもりでいた私と堂々と宿に泊まるつもりの宇髄さんとで昨日、若干揉めた。
「お金もったいないので野宿でいいじゃないですか?」
「お前はアホか?!俺だけならまだしもお前は女だぞ?他の野郎に万が一でもお前の裸見せるわけにいかねぇだろうが!」
「…何の話をしてるんですか?」
「あ?夜の情…「何言ってるんですかぁ?!?!」」
あろうことか野宿してまでも夜の営みをしようとしていた彼に白目を剥いたが、ここまで私を担いで走ってきた彼に懇願されてしまえば断ることなどできずに宿に泊まった。
しかも私は疲れていないが、彼は一日中走っていたのだから疲れている…はずなのにどこにそんな体力が有り余っているのか何の迷いもなく私を抱いた。
しかも私の方が起きていられなくて、気付いたら朝だったと言ういつもの流れだ。
スッキリ爽快な顔の宇髄さんとヒリヒリする下半身と腰の痛みに顔を歪ませる私とでは別世界のような気さえした。
そんなことまでわかっていたかのようにまた私を担いだ彼には申し訳ないと思う反面、"アンタのせいだしな…"と悪い私の顔が出てきてしまう。
そして…冒頭に戻る。
里から一番近い町と言っても裏手にある獣道のような山道に入ってから数十分後宇髄さんが初めてそんなことを言った。
文句と言うわけではないが揶揄するようなその顔に私も少し顔を緩ませた。本当ならば「馬鹿にしてーー!」と怒るところかもしれないが、最近気づいたのだ。身を隠すとはいえ、凄いところで育ったなと。
正宗たちと全国行脚した時に新しい世界に胸が躍ったのは本当に最近のことだし、19年間のうちのほとんどは此処で過ごしたのだ。