第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「ったくよぉ、誰なんだよ!あの糞野郎はよぉ。」
「さぁ…?私も初めて見たから…。」
「久しぶりに腕が鳴ったっつーのに。音の呼吸使うに値しねぇ、人間じゃぁなぁ…」
命を賭けて戦っていて、尚且つ相手は人外。
鬼と言う途方もない敵だった故、天元の強さも人外。
いや、元鬼殺隊士の多くはそうだろうけども、彼はその中でも柱と言う階級にあったわけで…
「…せめて日輪刀で脅すべきだったか…?」
「やめて!それだけで精神的に立ち直れないよ…!!」
そもそも彼の恵まれた体躯は戦う上では素晴らしく武器になること間違いなしだが、平和な世界では目の前にいるだけでかなりの威圧感。
幸いなことにかなりの男前なので、怖がられることは少なくて…町で歩いていれば女の人が振り返る彼に私もヤキモキするのはいつものこと。
だけど、こうやって焦って帰ってきてくれる彼が愛を全面に出してくれるから私はいつも幸せを感じることができる。
私の言葉を聞いて不満そうに口を尖らせた天元の肩にいる子猫を撫でると"ニャア"と擦り寄ってきた。
「…まぁ、コイツはよくやったとは思うけどよ…」
「じゃあ、仲直りね!ほら、天元。猫ちゃんと仲良くしてね。」
「し、仕方ねぇな。わぁーったよ。」
少しだけ面倒くさそうに子猫に向き合うと小さな頭をガシガシと撫でてあげていた。
その時だった。
──ニャァ、ニャァ、ニャァ!
その子猫ではない、他の猫の鳴き声が聴こえてきたのだ。
私と天元は同時にそちらを振り向けば、こちらを見上げる猫の姿。
その大きさは天元の肩にいる子よりも大きくて、そして毛の色などが似ていることから私たちは顔を見合わせた。
「…もしかして…、」
「…親、か?」
心配そうにこちらを見上げる猫を見た瞬間、私たちはどちらかともなく頷いた。
「怪我は…いいのか?」
「もう少しかかるけど、それより…大好きな人のそばにいることが1番の薬だよ。」
そう。天元が私を夜な夜な看病してくれたように薬よりも医療よりも大切なのは真心だろう。