第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
急に顔が近づいてきたかと思うと、いつもより乱暴に合わさった唇と同時に捩じ込まれた舌が熱くて蕩けそう。
彼との情交はお久しぶりと言うわけではない。
いつだって彼の手によって堕ちていると言うのに昨日、我慢してくれていたことで私の膣もジュン──と湿り気を帯びていく。
熱い舌が私の舌を絡めとるとザラっという感触と共に彼の中に誘い込まれる。
「っ、ん…ッ…!!」
逃げられないように後頭部を固定されてしまうと私は天元の前から少しも動けない。
この行為があの人に見せつけるための行為だと言うことくらいは想像がつくので、下手に拒否もできずにいる。
しかしながら、人に見られる口づけなんて恥ずかしいに決まっている。
それなのに何度も何度も角度を変えて、舌を絡め合う濃厚な口付けは私の意識をボーッとさせていく。
これが情交ならば彼に身を任せて、快楽に身を投じればいいのだけど、如何せん此処は外だ。
見せつけるための口づけだとしても慣れていない私はどうにも恥ずかしいのだ。
「っ、んんっ、ふッ、…!」
羞恥心で涙目になっていると数分後に漸く天元の顔が離れて、その瞳に情けないほど蕩けた表情の私が映っていた。
「…ンな顔すんなって。此処で抱いちまうぜ。」
「なっ!?さ、流石に…!」
人前で情交を見られるのは恥ずかしくて仕方ない。真っ暗闇でもなく、まだ薄暗い夕方だ。
露出した肌蹴た姿も淫らに喘いでしまうところも通行人に見られてしまうのは必至だ。
「バーカ。もういねぇよ。あの男。口付けしながら睨みつけてやってたら腰抜かしたまま情けねぇ格好で逃げていったぜ。」
「え…?!あ、…うわぁっ!!?」
そう言われて振り返った先には確かに誰もいない。足元にふわふわな感触を感じたことで私は思わず天元の首に抱きついた。
「ん?あー、猫だよ猫。お前が助けた猫野郎。」
そう言われて恐る恐る下を見てみるとにゃぁ!と言ってすり寄る子猫がこちらを見上げていた。
「その猫野郎が俺にお前の花飾りを持ってきたから慌てて帰ってきたんだ。まぁ…、良い用心棒、ではある。」
少しだけ照れくさそうにそう言った天元はその子猫を抱き上げて肩の上に乗せて、穏やかに笑った。