第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
目の前に飛び込んできてのは愛おしい女が他の男に塀に押し付けられる姿。
それを見てどれだけの男が冷静でいられるだろうか。
少なくとも俺はほの花のことになると冷静でいられないのは周知の事実。
ブチッと何かが切れたような音がしたのは気のせいではないだろう。鬼でないのが残念なくらいだ。
堂々と頚を斬ることができる相手ならばもうこの場ですぐにでも手を下していただろう。
だが、万が一鬼であればほの花も黙っていない。
相手が人間だから手を出すか出さないか迷っていたのだろう。
口で何とか分かってもらおうと考えるのはほの花らしいっちゃほの花らしいが。
だとしても俺は随分と苛ついている。
自分の女に軟派な声をかけたのは目に見えている。俺はこう見えても洞察力はあるつもりだ。
目を惹く容姿をしているほの花がひとたび町を歩けば男が振り返るのは昔からだ。
だが、そのうちのどの男が声をかけてきたのかまではわからない。
いくら好きになったとしても、俺がほの花を手放すことなどないからだ。
「…で?どうする?この場でぶち殺されるか、家ごと破壊されて血祭りにあげられるか。選べ。それくらいの情けはかけてやる。」
「ぼ、暴力を振るったら…警察に行くぞ…!!」
「だったら俺の女に先に手を出したことを今から警察で裁きを受けてから殺されるか三択にしてやる。どう考えてもお前が悪いのが見て分からねぇか。」
「ヒィッ…!!」
俺の空気感に恐れをなしたのか後退りをして距離を取るその男は酷く情けない。
こんな男をぶち殺したところで元音柱としてクソ恥ずかしいだけではないか。
『天元…』と声をかけてくるほの花が"もうやめてあげて"と目で訴えかけてくる。
その美しいきれいな黒目がちの瞳に俺はいつも酔わせられるのだから絆されるのも時間の問題だ。
俺はため息を吐くとほの花を抱きしめて、その男の前で口づけてやった。
「んっ…!!て、んげ…」
艶かしい声を聴かせてやることすら勿体無いが、見せつけてやるよ。
コイツが誰の女かってことを。