第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「じゃあ、ほの花によろしくなァ。」
「何だよ、お前ら。ウチで飲み直そうぜ?」
「そんなこと言って本当はほの花に早く会いたくて仕方がないんだろう?またの機会にしよう。」
産屋敷邸からの帰り道、不死川と冨岡を家で飲み直そうと誘ってみたが、軽くあしらわれてしまい、一人家路を行く。
まぁ、たまにアイツらは家に飲みに来るわけだから何も今日でなくともいいだろう。
冨岡の言ってることもあながち間違いではない。
一分一秒でも早くあの猫野郎と引き離したいと思っている俺の気持ちを察してくれているのは柱仲間ならでは、だろう。
土産もたんまりもらって家まであと少しと言うところで聴き覚えがある声が聴こえてくる。
この声を聴くだけで無意識に目尻が下がる俺は歩みの速度を速めようとした。
──ドンッ
「おわっ!!っ、てお前かよ…。」
突如、胸の中に飛び込んできたのは先ほどまで懸念していた猫野郎だった。
どうせ胸に飛び込んでくるならばほの花のがいいと言うのに何故コイツなんだ。どうにも気に食わない。
しかし、その猫が咥えていた物を見て俺は目を見開いた。
それは俺がほの花にあげた花飾りだったから。
悪戯でもしたのだろうか?と思いかけた時、今度は先ほどまで耳に入ってきていたほの花の声が穏やかな物でないことに気づいた。
"やだ…やめてください…!"
多少距離があっても、耳が良い俺が聞き間違えるわけがない。
しかも、その声は愛してやまない嫁の声。
間違えようがないのだ。
俺は猫を抱えたまま、屋敷に向かって全力疾走をした。
猫から花飾りを受け取り、懐に入れると"にゃあ!"と鳴いた。
コイツが言わんとしていたことが分かったような気がする。
「よくやった…、お前は最高の用心棒だぜ…!」
鬼殺隊は無くなり、柱も引退して数年経っているが、第一線で戦っていた俺は常人とは比べ物にならない身体能力だ。
風を切るように走っていくと玄関先でほの花が塀に押し付けられている姿が目に入った。
その瞬間、俺の中の堪忍袋の尾が切れる。
「上等じゃねぇか…!」
俺の女に手を出そうなんざ…
万死に値する。