第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「そっか!甘味好きなんだね?いつ行こうか?名前は?」
「あ、えと…や、やめて、おきます!ごめんなさい。」
「何で?甘味好きなんでしょ?もちろんご馳走するよ。」
ご馳走するとかしないとか。
お金に困っているわけではないのでどっちでもいい。
今も尚、慰労金のようなお金を下さる産屋敷様。
薬を売ったお金も十分すぎるほどある。
更に夫である天元はそれ以上の財力があるのだから甘味を買うどころか、店ごと何軒も買うことすらできてしまうだろう。
「ごめんなさい…本当に。」
「君みたいに綺麗な人初めて見たから是非とも仲良くしたいな?名前を教えて?」
一歩一歩こちらに近づいて来るその人に私も一歩一歩…と後退りをする。
手の中にあった花飾りが存在感を出してきた。
どうしよう…、天元が帰って来るまでに何とかこの人を追い払いたいけど、どうやら口が上手い人らしい。
私がしどろもどろになっているところに追い打ちをかけるようにどんどんと言葉が降ってくるので頭で考えているうちに背中には硬い壁の感触。
「本当に可愛いね。近くで見ると益々唆られるよ。」
「ど、どうも…あの、ち、ちかいです!離れてください。」
「嫌だと言ったら?」
──カラン…
その男性はそう言うと私の手首を掴んできたため、手に持っていた花飾りが音を立てて転がっていく。
しかし、拾おうと手を伸ばす前に先ほどまでそれで遊んでいた子猫が花飾り目掛けて飛びつき、口に咥えて走って行ってしまった。
「あ…!待って…!それを返して!」
いくら猫がすることとは言え、あの花飾りは私の大切なものだ。
野良猫同然のあの子がそれを咥えて何処かに行ってしまうなんていうのは私としては顔面蒼白になる案件。
だが、千載一遇の機会が訪れたとも思った。
このまま猫を追いかけていけば彼から離れられると思ったから。
私は慌てて子猫を追いかけようとしたのだが、掴まれた手首を離してくれないその人はあろうことか壁に私を押し付けてきた。
「なっ、は、離してください…!!大切なものなんです!探しに行かないと…!」
「それは困るな。やっと声をかけられたんだから。ね?もう少し話そうよ。」
ニヤリと笑ったその人の顔に私は身震いをした。