第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
須磨ちゃんと大進と話した後、部屋でぼんやりと外を眺めているといつの間にか空は茜色に染まっていた。
こうやってぼんやり過ごせることは物凄く幸せなことだ。
以前であれば、こうしてる間にもみんなが鬼狩りをしていると言うのに自分は動けなくて…なんて思っていたと思う。
そう考えると鬼のいぬ世界にうつつを抜かしていたとしても、こんな世界だからこその状況なのだろう。
"ニャア"と言う声と共に意識が浮上すると膝の上で子猫がこちらを向いていた。
時計を確認すればもうすぐ午後五時というところ。いつも大体夕方には帰ってくるのでそろそろ帰ってくるかもしれない。
"ニャア、ニャア、ニャア"
子猫は鳴きながら膝からぴょんと降りるとこちらを振り返った後に外を見つめた。
「んー?あ、外に行きたいの?」
怪我をしていたこともあり、外に出していなかったのだ。ついでに天元が帰ってくるのを外で待つのもいいだろう。
心配性な天元がそばにいて甲斐甲斐しく世話をしてくれることに慣れてしまったせいでこうやって数時間いないだけでも寂しくなる私も天元馬鹿に違いない。
子猫はまだ傷口が痛むのか縁側の上で止まったままこちらを向いているだけ。
そこから飛び降りたら傷口が開いてしまうかもしれない。
動物の本能と言うのはやはり凄い。
私は子猫を抱き上げると下駄を履いて、外に向かった。
玄関先ならば遊ばせていてもいいだろう。
そこにいれば天元が帰ってきたらすぐに分かるし、一石二鳥だ。
そう思い、玄関先に向かうとそこで子猫を下ろしてやった。
やはり飛び跳ねたり走り回ったりはしないが、興味深そうにその場をゆっくり歩く子猫はそんな少しのことでも嬉しそう。
私も一緒になってしゃがみ込むと天元がくれた髪飾りを外してそれで遊び始める。
きらきらとした花の形に模して付けられている天然石の輝きに猫が嬉しそうに戯れ始めた。
「ふふ。触ったら駄目だよ?これは大事な物なの。」
大事な物で遊ぶなと言われたらそれまでだが、いま遊べる玩具が手元になかったのだ。
天元には許してもらおう。
私と子猫は二人して夢中になって遊んでいると、暫くして夕陽の射す道に黒い影ができた。
もしかして天元?と上を見上げてみるとそこにいたのは全く知らない人だった。