第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
ところ変わって産屋敷邸
以前、此処にくる時は隊服を身に付けて鬼舞辻無惨の動向やら鬼殺隊の現在の状態やらをお館様を交えて話をしていた。
それなのにいまここを訪れれば穏やかな空気に力が抜けて行く。
訪れる人間は減ってしまった。
悲鳴嶼さんも
胡蝶も
伊黒も
甘露寺も
時透も
煉獄も
此処にはいない。
生き残った柱は俺を含めて3人だけ。
俺は遊郭の戦いで戦線離脱をしているし、不死川と冨岡と肩を並べるのは烏滸がましいとすら思うが、それでも元柱としての働きをこうやって労ってくれるお館様には感謝しかない。
いつも此処を訪れるとたくさんの美味い食事と酒がこれでもかと並べられて昔話をして懐かしむ。
不死川も冨岡も昔のように仲が悪いと言うことはない。
此処で会えば少しだけ気恥ずかしそうに言葉を交わす二人を見ると微笑ましくも思う。
「それで、天元はほの花とは上手くやってる?」
そして、お館様から決まって聞かれるのはほの花とのこと。
彼女は前お館様である耀哉様の専属薬師をしていた。
亡き後も彼女の薬は常備薬として納められていて、付き合いは続いている。
こうやってほの花のことを毎回聞かれるだから俺としては一緒に来ても良いだろうと思った次第だが、アイツから盛大に断られてしまったのは先ほどのことだ。
恐らく不死川も冨岡も此処にほの花がいようと大して気にしたりしないだろう。
「ええ、上手く…いってるとは思ってますけど、怪我をして猫を拾って来ました。」
「ええ?大丈夫なのかい?怪我の具合は?」
「あ、いえいえ。大した怪我ではないのでご心配なさらず…。ですが、昔と変わらず怪我の手当てばかりしていますよ。猫がどうやら手負だったようです。」
「ハハッ、それはそれは…天元は心配が絶えないね。でも、今や天元がいつだってそばにいられるからほの花も昔に比べたら甘えやすいんじゃない?」
確かに昔に比べたら甘えてくれるようになって来たとは思うが、あまりに我慢をさせすぎてしまったことがあるためなかなか自分自身に歯止めが効かない。
元々ほの花に対しては強い独占欲もあったのにそれも助長するばかりだ。