第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
我慢しなくて良いと言われても一体何のことやら…?と最初は分からなかったけど、彼の行動でだんだんとそれは詳らかになっていく。
熱を出せば『ツラいの我慢してたのか?ごめんな』と言われて、謝られる。
もちろん我慢していたなどという事実はなく、無理の効かない体になってしまったからちょっとしたことでも熱を出してしまう私。
前日、少し寒かったり、少しいつもよりもたくさん動いたり…
そんな日常生活でよくあることが私の体には的面。
翌日には発熱してしまうのだ。
そして、体がすっかり弱っていることでなかなか治らないそれにいつも申し訳なさがあった。
彼が悪いわけではないのに、いつも『気付かなくてごめん』と言ってくれる天元の言葉がその最たる理由だ。
だからだんだんと私は無理をしないように、我慢しないように…天元が謝らなくていいように少しずつ彼に甘えるようになっていったように思う。
思えば彼の策略のうちかもしれないが、それでも今となってみれば現状の天元との関係性になれたのは彼のその言葉のおかげだ。
「そっか…」
「だから許してあげて下さいと言うのはまた別問題かもしれませんが、宇髄様はただほの花様が大切なだけです。本当は猫の世話で疲れて熱を出したりしないか心配しているかもしれませんよ。」
「…た、確かに。」
大進からそう言われてしまうと、その言葉は説得力を発揮する。
熱を出せば夜通し看病してくれていたという証言は本当かもしれない。
言われてみれば夜中に目を覚ませばいつだって天元は起きていてくれた。
「…分かった。飼いたいなんて言わないから安心して。」
「ふふふ。ほの花ちゃんが飼わないんだったら私が飼いたいくらいです〜!ねぇ?大進様、良いですか〜?」
「…それはそれで…宇髄様の了承がいるのでは…?」
そうやって天真爛漫に笑うけど、大進の言葉は尤もだ。
私が諦めたとて屋敷内にこの猫がいるならば、私と接触しないように彼は全集中になるだろう。
「ええええ!!天元様ったら本当にほの花さんのこと大好きすぎますよ〜。」
「まぁ、それはもうどうすることもできませんよ。ハハハッ」
猫を抱き上げながら二人の和やかな笑い声が屋敷には響き渡った。