第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「宇髄様はいつもほの花様のこと考えてくれていますよ。」
大進はそう言うとぽつりぽつりと話し出した。
須磨ちゃんも隣で目尻を下げたまま猫を撫でている。
「夏になったらなったら蝉が苦手なほの花様のために人知れず蝉を捕まえては近くの広場の木に逃しに行ってるのを知っていますか?」
それは全く知らない事実。
私は大進の話に首を振った。
「春だって近くの桜の木までは散歩できるようになったほの花様のために毛虫がいないか前持って見に行ったりしていました。」
「…そ、うなの?」
天元はよくふらっと出かけたりすることがある。
何処に行くとも言わずに『野暮用だ』と言って何かを言うことはなかった。
でも、何かを言わずとも彼が不義を働いたりすることはないだろうと断言できるほど愛してくれていたので、不安になったことはない。
大進は尚も言葉を続けた。
「ほの花様がひとたび熱を出せば、夜通し看病されていましたよ。昼に一緒に昼寝すればいいからって。夜中に何度も水枕を変えるために洗面所に行く音が聴こえてきました。」
今はだいぶ少なくなってきたとは言え、一時期は二週に一度くらい定期的に熱を出していてその度に天元が看病きてくれていてのは知っていた。
知っていたけど、そんな夜通ししてくれていたなんて思いもしなかった。
「いつだって口癖は『ほの花に我慢させたくねぇからよ。』って。苦しいのも、ツラいのも…もう我慢させたくないからって。」
その言葉に私は目を見開いた。
"我慢させたくない"
天元と恋仲だった時、私は確かに少しだけ彼に対して元奥様に対して遠慮があった。
継子だったし、奥様がいたのに私と恋仲になるために関係を解消させてしまったことに申し訳なさを感じていたからだ。
特に元奥様に対しては本当に気を遣っていた。
嫌な思いをしないように、させないように、細心の注意を払っていたと言って良い。
でも、遊郭の戦いの後、失っていた記憶が戻った時、天元に言われたことがある。
『もう我慢しなくていいからな。』って。