第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「…ん。」
漸く返してくれた猫を受け取ると私は膝の上で手当てを開始する。
それにしても天元の猫に対する嫉妬には困ったものだ。
天元に嫉妬されるのは嫌いじゃないし、むしろ嬉しいのだけども…
同じように座ると目の前に陣取って猫が粗相をしないかどうかに目を光らせている姿はまるで番犬だ。
こんなこと口に出すことも憚られるけど、大きな子どもが駄々を捏ねているように見えて少しだけ"可愛い"だなんて思ってしまう。
天元は凄く格好いい。
いつも大人で優しくて私の我儘も受け入れてくれる度量の広さを持っている。
だからこそ、こうやって嫉妬する時だけは小さな子どものようになるところが可愛いだなんて思うのは仕方ないことだと思う。
「…変なところ触んなよ?猫野郎が…!」
「あはは…、大丈夫だって…。猫だよ…?」
「猫でも男だって言ってんだろ?!」
猫に此処まで嫉妬できるのは逆に才能だと思う。
流石は元音柱だ。
類稀なる才能で柱まで登り詰めた男はこんなところでも才能を発揮するなんて天晴れとしか言いようがない。
天元に睨まれながらも猫の傷口に薬を塗り込むと包帯を巻いていく。
どうやら私には慣れてくれているようで猫もこちらを向いて"にゃあ"と穏やかな表情を見せてくれる。
しかし、敵意を剥き出しにしてくる天元に対してはちゃんと敵意で返すあたりは防衛本能というやつだろうか?
天元に向かって"シャーー!"と睨みを効かせる猫に私は苦笑いしかない。
落ち着かせるように撫でてやれば、ペロっと指を舐めてくれる。
それが擽ったくて思わず笑いが込み上げた。
「あははっ!擽ったいよ〜。」
可愛い猫が私の指を舐めたところで私はどうってことはない。
"私は"
それを見ていた天元の額に青筋が立つと"ブチっ"と言う音が聴こえたとか聴こえていないとか…
「テメェ…俺の女の指を舐めるなんざ…万死に値する…!!ド派手に爆破してやる!!」
「ちょぉーーーっと待って!?甘えただけじゃない!まだ子猫なんだから…!親が恋しいのよ!」
「俺は…俺は…!昨日、怪我してるからと思ってお前を抱くのを我慢したんだぞ…?!」
それは間違いない。
天元は私の体のことになると途端に心配性なのだ。
要するに"俺は我慢したのに猫には舐めさせんのか?"と言うことだろう。