第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
その日から俺と猫との冷戦が始まった。
置いてやると言ったのは、猫にやった情けではない。
ほの花があまりに可愛い顔をしておねだりして来たからに他ならない。
だから仲良くする理由などない。
居心地が良くなって居座られてしまったらそれこそ迷惑だからだ。
「だぁーーー!触んな!!!」
「んにゃぁ!!」
「え、ちょ…て、天元?!」
縁側でほの花の膝に猫野郎が顔を擦り付けたところで俺はそいつの首根っこを掴んで離してやった。
「んにゃぁーー!!!」
「ほの花の膝で昼寝しようなんざ100万年早ェんだわ!!」
「て、天元…?!」
驚いているほの花だが、当たり前だろ?
他の男に膝枕するなんざ、この俺が許すわけがないのだ。
首根っこを掴んだまま睨み合う俺と猫野郎にほの花が困ったように俺を下から見上げて来た。
「ね、ねぇ…猫ちゃん、可哀想だよ…離してあげて?今、包帯の交換しようとしたんだよ。ね?」
「膝でする必要あんのか?!」
「いや、小さいから膝の上でやった方がやりやすいんだよ…。ね?お願い?」
「じゃあ、その後俺にも膝枕しろ!!何で猫のが先にしてんだよ!俺は膝枕なんざやってもらった記憶はねぇ!!!」
「……そ、そう、だっけ?」
逆ならばある。
よく縁側で昼寝してしまうほの花を自らの膝に乗っけてやることはよくあることだ。
安心しきった顔を見るとそれだけで満たされていくので俺は縁側でほの花が昼寝をすることが好きだった。
それなのに俺よりも先に他の男(猫だけど)に膝枕するなんてどう考えてもおかしいだろ?!
「やるのか?!やらねぇのか?!」
これではまるで借金の取り立てだ。
凄むようにほの花に睨みを効かせると呆れたように笑い、背伸びをすると俺の頭をポンポンと撫でた。
「分かったよ〜。よしよし。あとでやるからほら、猫ちゃんをかえして?ね?良い子だから。」
「はぁん?!餓鬼扱いすんじゃねぇえええ!!!」
「(子どもみたいなこと言ってよく言うなぁ…)してないしてない。あとで膝枕するから、ね?」
その態度にイラッとしたものの、どうにも俺はほの花の笑顔に弱い。
クソ可愛い上に簡単に言うことを聞きたくなってしまうのだ。