第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
お館様に了承を得るとほの花の薬の調合が終わるまで屋敷の外で待っていた。
数十分程でほの花が出てきたので、近寄ると満面の笑みで駆け寄ってきた。ほの花の笑顔を見るとこちらまで自然に口角が上がる。
好いてる奴だからと言うのもあるとは思うがほの花の笑顔には不思議な力があると思う。コイツが笑ってると自然と周りまで笑顔になる。
だからいつだってコイツには笑っていてほしいと思う。
しかし、出てきたほの花の顔色がほんの少しだけ青白い気がしてまじまじと顔を覗き込んだ。
「え、ど、どうしたんですか?何かついてます?!」
声は元気そうだし、触れてみる顔に熱はない。
気のせいか…?
「…いや、顔色悪い気がしたからよ。」
「え?そうですか?光の加減じゃないですか?」
「大丈夫かよ。念のため聞くけど……使ってねぇな?」
ほの花の不思議な能力のことを考えると気が気でない。手を翳すだけで体の不調や怪我を取り除くその能力は使った本人にしっぺ返しのような反動があることを知ってから、たとえそれがお館様であっても使わないように毎回必ず言うのが当たり前になっていた。
最初、俺に能力の信憑性を信じさせるためだけに簡単にそれを使いやがったほの花は目の前に死にそうな奴がいたら何の迷いもなく使う。
絶対に使う。
数ヶ月一緒にいただけで、コイツの優しい性格や自己犠牲の性質が見えてきてしまえばそれは確信へと変わった。
そんな俺の心配もよそにほの花はキョトンとした顔を見せるものだからそれが取り越し苦労だと思うしかない。
「本当に大丈夫ですよー!使ってません!さ、帰って荷造りしないと!早く行って早く帰らないと!ですね!」
「……ああ。そうだな。」
陽の光が差し込んでこちらを向くほの花が消えそうなほど白く感じて思わず腕を掴んで引き寄せた。
「宇髄さん?どうしたんですか?」
「…愛してる。ほの花。」
「ふ、ふぇ?な、な、何ですかぁ!急に!!」
真っ赤な顔をして恥ずかしがるほの花を見ると漸く生気を感じてホッとしてしばらくの間腕の中に閉じ込めてしまった。